第10章 生きている証※
悲しみをかき消すように恵くんの唇を食んでいる中、ふと頬をなぞる指の感触に動きが止まった。
そして、そこにある濡れた感触に、自分が泣いていることに気づいた。
ゆっくりと瞼を開くと、慈しむように細められた恵くんの瞳が、至近距離で私を射抜いている。
「っ……ごめ──…」
一瞬で我に返り、恵くんの唇を解放して身体を起こそうとした。
それなのに。
何故か私は今、恵くんの暖かな胸の中に、強く抱きとめられている。
「あのっ、ごめんなさい…」
「……お前はさっきから、何に対して謝ってんだよ」
その問いかけに、自分の醜い独占欲や執着をどこまで白状すべきか言葉が詰まってしまう。
そんな私の迷いを見透かしたように、恵くんは言葉を続けた。
「先に言っとくが、…俺は、嫌だと思ったら迷わず突き飛ばす」
「え………」
それは、つまり、どういうことだろう。
「……もういいだろ、寝ろ」
そう言った恵くんは、戸惑う私の視線から逃げるように顔を逸らした。
だけどそのせいで顕になった耳がほんの少しだけ赤らんでいて、それだけで、胸の奥を支配していたどろどろとした不安が一気に霧散していく。
「嫌じゃ、なかった…?」
「………」
「……何しても、いいの?」
「…まだ昼だろ、大人しくしてろ」
そう言いつつも、嫌だとは言わない恵くんは分かりやすい。
それ以上に、耳に当たる恵くんの胸から響く心臓の音が、全てを物語っていたけれど。
「寝ちゃうの?めぐみくん」
そっぽを向いたまま動かなくなった彼を、逞しい胸元から覗き込むようにして問いかける。
昼とか、夜とか、そんなの今はどうでもいい。
私はただ、恵くんに塗りつぶされたい。
「………寝れるわけねぇだろ」
呆れたような深い溜息とともに、恵くんの身体が起き上がり、今度は私の身体がシーツへと沈め直された。