第10章 生きている証※
シャッとカーテンが閉められる音と共に、視界が暗くなった。
少しの足音の後、ぽんと頭頂に手が乗せられ振り返ると、上下スウェットに着替えた恵くんがそこに立っていた。
「……こっち、来て」
先に横になり、布団の端に寄ってスペースを空けると、恵くんは喉仏を小さく上下させてから ゆっくりと私の隣に身体を横たえた。
ふわりと恵くんの香りが鼻先を掠めて、それだけで泣きそうなほど安心してしまう。
「……恵くん」
「なんだよ」
触れたい。
その体温を感じて、安心したい。
目の前で死んだあの人の顔も、私の足元で跪く人たちの背中も───ボロボロになった恵くんの姿も。
嫌なこと全部、恵くんに溶かされて、忘れてしまいたい。
(怖いのも、苦しいのも、全部──上書きしてほしい)
そんな利己的な感情に支配された瞬間。
私の身体は、横になった恵くんに覆いかぶさっていた。
「……何のつもりだ」
「………ごめんね」
何への謝罪なのか、自分でもよくわからなかった。
私を見上げた恵くんが、驚いたように目を見開く。
その瞳に映る歪んだ表情の自分自身に背中を押されるように、吸い寄せられるように、私は恵くんの唇を奪った。
「…っ、…おいっ、」
言葉を塞ぐように、もう一度唇を重ね、今度は躊躇うことなく舌を差し込んだ。
観念したように舌を絡ませられれば、どこかに穴が空いた空っぽの心臓が、一瞬で恵くんの熱に満たされていく。
窓の外では鳥たちがぴちちと可愛らしく鳴いているのに、ガラス一枚隔てたこの部屋の中は、私と恵くんの唾液が絡み合う淫らな音が満ちていく。
(…どこにも行かないで。傷つかないで、誰にも傷つけられないで)
この感情が、「好き」なんて生易しい言葉に収まりきらないことなんて、とうの昔に気づいてた。
これはもっと独善的で、ただの呪いに近い執着だ。
それでも、恵くんがこの行為を受け入れてくれるうちは、心の内で思うだけなら許される気がして。
(ずっとダメな子で、ごめんね…っ)
やっと、さっきの謝罪の意図が自分でわかった。
恵くんが選んだ、"私"という女が、こんなにも卑しくて、穢らわしいなんて。
本当は、許されるべきじゃないからだ。