第10章 生きている証※
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恵くんは、私を心配して、早く寝てほしいと思ってくれている。
それは分かってるし、実際、夜通し起きていたせいで眠気はひどかった。
それでも、眠りたくなかった。
昨日、目の前で肉片になった男の人の顔が、まだ頭にこびり付いている。
きっとこのまま目を閉じたら、あの残酷な光景が夢に現れる。
漠然とそう分かっていたから、ずっと、怖くて眠れなかった。
「……早く目ぇ瞑れ」
じっと見上げてくる私の視線に居心地が悪くなったのか、恵くんはくしゃりと乱暴に私の髪を撫でて、ベッドから離れようとする。
「……オイ、」
行かないで。
そう叫ぶ代わりに彼の服の裾を強く引くと、少し怒ったような瞳に見下ろされた。
「いっしょに、寝てほしい」
「無理だ」
「お願い……ひとりだと、こわいゆめ、見そうだから……っ」
ベッドから起き上がり、恵くんを見上げたまま縋るように呟いた。
私の言葉に恵くんは浅いため息を吐き出したけれど、さっきよりずっと優しく私の髪を撫でてくれた。
「……着替えるから、ちょっと待ってろ」
遠回しの了承に、コクン、と大きく頷く。
恵くんは引き出しから着替えを取り出すと、私に背を向けたまま、白いシャツのボタンを一つずつ外し始めた。
両腕からシャツが抜け、肌着を雑に脱ぎ捨てて洗濯カゴへ投げ入れる。
顕になったその背中には、意外にもしっかりとした筋肉が付いていて、心臓がドキリと大きく跳ねた。
(……一年前とは、違くなってる)
筋肉の付き方も、身体の厚みも。
ただ一つだけ同じなのは、背中に刻まれた消えない傷跡だけ。
「……あんま見んな」
「あっ、ごめん………かっこよくて、」
思わず口から飛び出した本音に、恵くんの身体がピクリと硬直した。
一瞬の沈黙の後。
気まずそうに視線を泳がせた恵くんは逃げるようにスウェットを被ると、「あっち見向いてろ」と低い声で私に指示してから、急いでボトムスを履き替えた。