第10章 生きている証※
もぞもぞと動く腕の中の物体に邪な気を起こさないように、必死に別のことを考えた。
そういえば、こいつも昨日、早朝から京都に派遣されていた。
共闘任務だったというのは盗み聞きで知っていたが、それにしても帰還が早すぎないか。
そう思って問いかけようとした瞬間、自分の中で一つの答えに辿り着いた。
(……写真を見て、無理して帰ってきたのか)
きっとそれが答えだ。
だとすれば、本人に聞いたところで素直に認めるはずもない。
ナマエは俺の任務に干渉しない。
心配も、不安も、全部自分の奥底に飲み込んで消化しようとするからだ。
(………余計なことしてんじゃねえよ、あの馬鹿教師)
あの人のことだ。
ナマエがこうなることを百も承知で、面白がってあの写真を送り付けたのだろう。
「ん…、ふぁ…」
「………」
頼む。
あくびだとは分かっているが、この状況でそんな声を出すのは勘弁してくれ。
無言の圧をかけるように目の前の旋毛を睨みつけたが、当の本人は知らぬ存ぜぬといった様子で、甘えるように俺の胸に額を預けてきた。
「……寝てねぇのか」
「ん………うん。ちょっと、眠れなくて」
ナマエはそれ以上、理由を告げなかった。
目の下に見えた微かな隈が、どれだけの時間を不安の中で過ごしたかを物語っている。
「ベッド使っていいから、少し寝ろ。俺は本でも読んでる」
「え……や、やだ」
言った傍から、離れたくないと言いたげに俺の服を掴む指先に力がこもる。
捨てられた仔犬のような顔を向けられ絆されそうになるのを、首を振ってどうにか耐えた。
「そんな顔してもダメだ、寝ろ」
「……わかった、」
渋々腕の中から離れたナマエの髪を少し乱暴に撫でる。
そのまま、眠気でふらつく細い手首を引いてベッドへ促した。
「ほら、入れ」
「ん……」
不服そうに唇を尖らせながらも、ナマエは大人しく横になる。
肩まで布団を掛けてやると、ナマエはシーツの感触に顔を埋めながら、眠気に蕩けた目でじっと俺を見上げてきた。