第10章 生きている証※
「あの……、急にごめんね。帰ってきたばっかりなのに」
扉を閉めたあと、ナマエは小さく肩をすくめ、申し訳なさそうに視線を落とした。
その声は廊下で冷え切ったせいか、いつもより細く震えている。
「別に、」
そう短く返すのが精一杯だった。
本当なら、そんな薄着で何時間待っていたんだ、と叱るべきなのかもしれない。
けれど、今の俺にコイツを突き放すだけの余裕は残っていなかった。
「「……」」
部屋に流れる沈黙が苦しい。
俺は背を向け、少しでもこの気まずい空気を払拭しようと、無造作に鞄を床に置いた。
「………めぐみくん」
背後から服の裾を引かれ視線をやれば、ナマエが俯いたまま唇を噛み締めていた。
「……ごめん。ぎゅって、したい」
絞り出すように出されたその言葉に、思考が一瞬停止する。
視線を右往左往させながら、時折 俺の顔色を伺うその姿に、一度深く息を吐いてから上着を脱ぎ捨てた。
「お願い……」
「不安でたまりません」とでも言いたげに眉を下げたナマエは、既に近い距離を埋めるようにもう一歩、踏み込んでくる。
「だめ…?」
無意識なのか、それとも計算なのかは分からない。
けれど、その潤んだ赤い瞳に上目遣いで縋られれば、俺の逃げ場はいつだって、どこにもなくなるんだ。
「……ダメじゃ、ねえ」
「…!」
吐き捨てるように呟いて、冷えた細い腕を引き寄せる。
その瞬間、俺の腕の中で暖を取るようにナマエが小さく縮こまり、俺はそれに応えるように腕の力を強めた。