第10章 生きている証※
乱れたネクタイを整えながら一息ついた七海さんの姿を見て、私もようやく肺の中の熱を吐き出した。
「ミョウジさん、遭難者の方々は」
「あっちの木陰に……! すぐに呼んできますね」
「待ってください」
駆けだそうとした私の足を、七海さんの穏やかな声が止める。
振り返ると、七海さんは真っ直ぐに私を見据え、小さく頭を下げた。
「助かりました。これは一人だと、なかなか骨の折れる任務でしたね」
「……!」
七海さんの役に立てた──。
その事実が凍えていた胸の奥をじんわりと温めて、自分でも無意識のうちに、口角が緩んでいくのがわかった。
「恐らく、先程の呪霊が例の術式の使用者でしょう。 条件つきの術式なだけあって、真っ向からの戦闘には不向きだった」
「へえ……」
「貴女が背後の懸念を断ってくれたお陰で、私は攻撃に専念できました。ありがとうございます」
戦闘後にも関わらず、整った大人の顔。
だけどその横顔には疲労の色混在している。
「被呪者の方々を速やかに保護し、病院へ。その後、私たちも宿へ向かうことにしましょうか」
「はい……!!」
緊張が解けたせいか、急激に重たくなった足を叱咤しながら、私は遭難者たちが隠れている木陰へと向かった。
「もう大丈夫ですよ、帰りましょう」
暗がりに身を寄せ合う三人に向けて微笑むと、彼らは目尻に涙を浮かべ、一斉に私の足元で地面に額を擦りつけた。
「本当に、本当にありがとうございます……!!」
「私、もうダメかと…!」
不自然なほどに深く、重い平伏に、私の心臓が冷たく跳ねる。
「…助けたのは、あっちの男性の方なので」
必死に否定の言葉を紡ぐけれど、彼らは聞く耳を持たず、震える手で私の靴や服の裾に触れようとしてくる。
視界に焼き付く、頭を垂れる背中。
この見覚えのある光景が脳の奥底にある記憶を呼び起こし、喉の奥が引き攣った。