第10章 生きている証※
飛び散った肉片と、鼻を突く鉄錆のような匂い。
山を包む呪力の濃さも相まって、目眩が強くなる。
「一度退避しましょう。対策を練り直してから出直した方が良さそうです。
相手の全容が見えない以上、これ以上の深入りは合理的ではありません」
七海さんの思考はどこまでも冷静だった。
けれど、私は彼の命を振り返らずにはいられない。
「……七海さん。さっき、もし私が彼に刺されていたら……彼は死なずに済んだでしょうか」
私の弱々しい問いに七海さんは足を止め、低く、重みのある声で答えた。
「どちらとも言えません。相手は呪い、姑息な手段など当たり前のように使ってきますから。
彼の言っていた人間も、本当に無事に逃げられたかどうか」
「……そう、ですね」
非術師は、呪いに対抗する術を持たない。
だから、私たち呪術師が守らなきゃならない。
理不尽に命を弄ばれ、何が起きたか分からないまま消えていく。
そんな最期を、私は認められない。
だから、私は──。
「………七海さん、これ、持っててください」
赤い糸を編み込んで作った"御守り"を、七海さんに差し出す。
突然の贈り物に、七海さんは不審げに眉根を寄せ、その小さな編み目をじっと見つめる。
けれど、次の瞬間には拒むことなく受け取り、短く会釈をした。
「……いただいておきます」
きっと、気づかれている。
この"御守り"に、私の呪力が組み込んであることを。
だからこそ眉を寄せ、その意味を測るように受け取ることを躊躇ったのだ。