第10章 生きている証※
道中で昼食を済ませ、そこから更に三時間。
車に揺られた私たちは、ようやく現場のハイキングコースの入口に立っていた。
「七海さん……」
「はい、居ますね。それもかなり強力なものが」
七海さんは眼鏡の奥の瞳を険しく細め、澱んだ空気が停滞する山道を凝視した。
入り口に張られた立入禁止のテープが、風もないのに不気味に揺れている。
「ハイキングコースは現在閉鎖されていますので、中にいる人間は遭難者、もしくは呪詛師と思ってください」
「え…呪詛師?」
予想だにしなかった単語に、思わず声が漏れる。
呪いではなく、悪意を持った人間が相手になる可能性。
七海さんは表情一つ変えず、淡々と冷徹な事実を口にした。
「無きにしも非ず、ですよ。世の中、善人ばかりではありませんからね」
「……」
それだけ言って、七海さんは武器を取り、迷いのない足取りで道なりに進んで行く。
私は見送ってくれる補助監督さんに一礼だけして、その大きな背中を追いかけた。
(呪力が濃い……。酔いそう、)
一歩足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような、ねっとりとした不快感に襲われる。
視界を覆い尽くす残穢と呪力の色のせいで、立ちくらみに似た眩暈が脳を揺らした。
「私が先を歩きます。ミョウジさんは背後に注意しながら着いてきてください」
「はい……っ!」
私の変化に気づいたのか、七海さんは目線だけをこちらに向けると、そう言って私の前に立った。
その大きな背中が視界にあるだけで、緊張や不安が和らぎ、意識が繋ぎ止められる。
服の下に隠れた赤い布へ呪力を流しこみながら───私は夕日の差し込む山の奥へ、足を踏み出した。