第10章 生きている証※
窓の外を流れる景色を見つめながら、私は七海さんと今回の呪霊について打ち合せを続けた。
「相手は一級相当。それより弱いこともあれば、強い可能性もあります」
「一級より強い……特級ってことですか?」
「ええ。術式の複雑さや領域の有無、そういった要因次第では、一級の枠を優に超えます」
七海さんの声色はあくまで事務的で、感情の揺らぎは一切ない。
けれど、だからこそその言葉の重みが、私の背筋をぞくりと撫でる。
「特級と言われるくらいですから、そう簡単に現れることは無いでしょうが、警戒するに越したことはありません」
バックミラー越しに私を真っ直ぐに射抜いた七海さんに向け、私は深く頷き、拳を固く握りしめた。
「場所は京都北部の山奥。ハイキングコースとして有名ですが、ここ数日、行方不明者が続出しています」
七海さんが見せてくれた地図アプリの画面には、緑深い山々が映し出されている。
「単に遭難しているだけなら、遭難者を保護。呪霊が絡んでいた場合はその祓除。状況に応じて対応を分ける」
七海さんの無駄のない指示は、五条さんのそれとは似ても似つかない。
けれど、この淡々とした指示のおかげで何をすればいいのか明確にされて、心強かった。
「ここから現場まではまだ時間がかかります。貴女は体力を温存しておいてください。
質問等なければ、ゆっくり休んでいていいですよ」
「はい……! ありがとうございます」
とはいえ、この緊張感で休めるはずもない。
私は資料を膝の上で広げ、遭難者の顔と名前を一人ひとり頭に叩き込んだ。
(ここ1ヶ月で10人以上……)
仮にそれが呪霊の仕業だとすれば、助かる命はいくつあるのだろうか。
そんなことを考え出すとキリがなかった。
とにかく、今回私は何があっても、七海さんの背中から一つでも多くの技術を盗む。
仙台へ行けなかった未練も、準一級という重圧も、今はすべてこの任務への集中力に変えるんだ。
そう自分に言い聞かせ、私は資料から状況証拠を読み、呪霊について少しでも多くの情報を手繰り寄せようと目を凝らした。