第10章 生きている証※
七海さんからはぐれないよう背中を追いかけていると、不意に彼の足が止まり、私もぶつからないよう慌てて足を止めた。
「補助監督の車に乗ります。お先にどうぞ」
「あ……えっと、ありがとうございます」
七海さんは緩やかに振り返ると同時に、迷いのない所作で後部座席の扉を開け、私を車内へと促す。
その後、七海さんも助手席へと腰を落とし、しっかりとシートベルトを締めてから、鞄から私が持っているのと同じ資料を取り出した。
「今回の任務は元々私個人に当てられていたものですが、急遽、共同任務という形になりました」
七海さんの声が、走行し始めた車内の静寂に低く響く。
「突然の予定変更で貴女の時間を奪ってしまったことを、申し訳なく思います」
「えっ、いや……! 七海さんが謝ることじゃないです…!」
思わず身を乗り出して否定すると、七海さんはバックミラー越しに視線を向け、静かに眼鏡のブリッジを押し上げて続けた。
「私も、過去に幾度となく同じことがありました。
やっとのことで取り付けた翌日の休暇が、理不尽な呼び出しで潰される。この業界ではザラにあることですよ」
「あ……それは、その……ご愁傷さまです……」
実体験に基づいた、あまりに重みのある言葉に、気の利いた返答はできなかった。
もっとも、恵くんとの共同任務が消えたことに未練を抱き、任務をずらそうとしていた私には、そんな苦労を語る資格なんてないけれど。
「とにかく、貴女はまだ高校生になったばかりの子供です。現場では私の指示に従い、無理、無茶はしないように」
「はっ、はい!!」
「……いい返事です」
わずかに、七海さんの声のトーンが和らいだ気がした。
褒められたのが嬉しくて、今から任務だというのに、ほんの少しだけ口角が緩んでしまう。
何より、私をここまで育ててくれた五条さんの教育が認められたようで、なんだか私まで誇らしい気持ちになれた。