第10章 生きている証※
「……分かりました。行きます、京都」
「…助かります」
伊地知さんは安堵の息を漏らしたけれど、
私の胸の中には、明日仙台の街を二人で歩くはずだった未来図が未練がましく残っている。
「───お前、年々五条さんに似てきてんぞ」
「……!!」
肩を落として廊下の木目を見つめていると、背後から聞きなれた、少し低い声がかかる。
振り返ると、そこには制服のポケットに両手を入れた恵くんが立っていた。
気まずくなって思わず視線を泳がせると、恵くんは呆れたように、わざとらしく長い息を吐く。
「我儘言うな。仕方ねぇだろ」
「………そうだけど」
あまりに淡々としたその態度に、ぎゅっと心臓が締め付けられた。
こんなに悲しいのは私だけで、一人で任務に行ける恵くんは……むしろ、私と離れられて清々してるのかな。
「あの……。お二人の休暇が合うように、後日、任務の調整を頑張ってみますので!仙台は、また別の機会にということで……」
私たちの間に流れる険悪な沈黙に耐えかねたのか、伊地知さんが必死にフォローを入れてくれる。
その言葉に期待して、つい瞳を輝かせて顔を上げると、恵くんの大きな手が私の頭を上からガシッと掴んだ。
「あんまこいつを甘やかさないでください。そのうち五条さんみたいに付け上がりますよ」
「それは困りますが………」
恵くんの軽口が、棘のように心臓に突き刺さる。
私はただ、一秒でも長く一緒にいたいと思っていただけなのに。
口先を尖らせる私を見て、伊地知さんは困ったように、けれどどこか温かな眼差しで、私とそっぽを向く恵くんを交互に見つめた。
「入学して早々、休みなく色々な任務に就いてもらっていますから。
私としても、たまにはお二人揃って、ゆっくりと休暇を取っていただきたいと思っていたんですよ」
「……まあ、伊地知さんがそこまで言うなら、」
伊地知さんの精一杯の気遣いと、諭すような優しい問いかけが響いたのか。
私の頭を押さえつけていた恵くんの指先の力が、ほんの少しだけ緩んだ。