第30章 呆然と失墜
『でもね……言える機会も、あったんじゃないかって…私が勝手に信用して、勝手に落胆しただけ……』
ハッキリと紅海の口から失望の言葉が出る
視線を落としたまま…五条は動かない
彼の中で言葉にならない思考が巡る
守りたかったから…と言うのもあった
でも、それは建前だ
本当は、虎杖が生きていると知れば、紅海は躊躇なく近づく
いつ宿儺が表に出るか分からない存在へ
宿儺に首元を噛まれ、触れられた…もう無いとは限らない
そんな事、自分自身が耐えられない…
これは合理的でも何でもない、ただの私情だ
そして今、選んだ沈黙が彼女を傷つけた
五条は、小さく息を吐き少しだけ笑う
「……ねぇ紅海、僕さ世間が思ってるより完璧じゃないんだよね」
紅海の方を向く
「信用してないから言わなかったんじゃない……逆だよ
絶対に、君なら普通に彼に接するでしょ?あんな事有ったのにさ
僕は、それが怖かったんだ…宿儺の危険に晒されないのか…とか…ほんと過保護だよね~」
紅海は、涙をぬぐう
「でもさ失望されたまま終わるのは、ちょっと嫌なんだ」
五条は逃げずに、隣に居続ける
――離れないという選択だけを示して
泣き疲れた呼吸が、少しずつ落ち着き始める
紅海は俯いたまま考えていた
――悟は最強だ昔からそうだった
任務も、判断も、生徒への指導も軽そうに見えて、いつも間違えない
京都へ配属されていた数年間は直接見ていないけれど、それでも分かる
きっとずっと、変わらずそうだったのだと…
悟が海外から帰ってきた時、疲れていたはずなのに
それでも笑って「ただいま」と言おうとしていた事も気づいていた
なのに自分は感情のまま怒りをぶつけた
悟の一日を壊したんだ…ご機嫌だったかもしれない時間を
落胆させたかもしれないし、嫌な気分にさせたかもしれない
それなのに今も隣にいてくれて
……本当に、どこまで完璧なんだろ
胸が締まり涙がまた溢れてきた
失望されたのは、自分の方だ
我慢できたはずだった
笑って「お帰り」と言えたはずだった
悟の気持ちを踏みにじった