第30章 呆然と失墜
翌日…高専訓練場
朝の空気はまだ冷たく、朝露がまだ残っている
生徒や職員たちは、モニターで希望者が観戦する方式
突然の教師達の模擬戦に周囲がざわめく
表向きはフィールドの確認の為の模擬戦…としている
実際のところ本人達は本気だ
「五条先生と、紅海先生が?」
「え、流鏑馬先生大丈夫なの?」
様々な声が聞こえる
ただ、2人が立つ、この場所だけが静かだった
フィールド…二人の間に立つ夜蛾
腕を組み、低い声で告げる
「良いか?あくまで模擬戦だ…交流戦前のエキシビジョン扱いにしている」
視線が二人を順に射抜く
昨晩、五条は夜蛾に電話を掛けた…説明をして教師2人が勝負をしたいと言い出すので頭を抱えた
「――私に後始末をさせるな」
元担任は、2人のわがままを、交流戦2日前のエキシビジョン戦として融通を聞かせた
そして…
紅海が一歩前に出る
「夜蛾先生、ありがとうございます」
五条は肩を回しながら笑う
「いやぁ、学長立ち会いとか、ちょっと緊張するなぁ」
軽口を叩くが、目だけが静かに研ぎ澄まされている
夜蛾が指を立てて確認する
「条件を再確認する
呪力強化あり、術式使用禁止、領域展開禁止、体術のみ
制限時間5分」
視線が鋭くなる
「――始め」
空気が、消え次の瞬間
砂が弾けた先に動いたのは紅海だった
低く踏み込み地面すれすれの重心移動
回転軌道に乗せ横薙ぎの蹴り
「おっと」
五条が最小限の動きで後退
だが避け切らせない
紅海は回転を止めず、連続で蹴りを繰り出す
間合いを与えない
速い五条の内心が僅かに動く
――昔より迷いがないね
腕で受ける、呪力強化された衝撃が骨に響く
「最初からトップギアじゃん」
笑いながら、踏み込み反撃を開始する
無駄のない最短距離で拳を繰り出す
紅海は瞬時に身体を沈めた
拳が髪をかすめ、風圧が後からついてくる
同時に五条の脇腹へ肘打ち
鈍い音がする
「……ぐっ」
五条が僅かに息を吐く
即座にお互いの距離が離れる
紅海、容赦ないね…こんなの久々だよ
五条は口角を上げる
砂煙が落ち着く前に、二人同時に踏み込んだ
拳と蹴りが交差する、受け流し、崩す、術式がない分、シンプルな勝負だ