第30章 呆然と失墜
交流試合3日前…
『おかえり、悟』
海外任務から戻ったばかりの五条は
帰還報告もそこそこに呼び止められた
振り向いた先にいたのは紅海だ
笑顔で手を振ろうとするが、様子がおかしい事が一目で分かった
普段なら、笑って迎えてくれるのに、今日は、まっすぐこちらを見ている
『悟、私…』
声が震えていた…
『虎杖くんの事…聞いたよ…何で内緒にしてたの?
それ以外にも、悟が伏黒くん姉弟を小さい頃から支援してたのも知らなかったし…私、知らないことばかり』
言葉が止まらない…本人を目の前にすると
溜め込んできた時間が、そのまま溢れている
『悟は、私に何も言わないよね?信用されてないの?』
五条は口開けない
『私だけ、一方的に悟の事信用してたの?』
胸の奥を、正確に刺される
『それなのに、悟は私に過保護みたいに接して、何かあったら報告しろって…』
呼吸が乱れる
『……なんなの?』
紅海はまだ続ける
『そりゃ全部知りたいなんて、わがままだし…思ってないよ…でも…』
声が崩れる
『こんな大事な事、言わないなんて……』
目が揺れる
『裏切られた気分だった』
五条の指がわずかに動く
『私だけ、悟と信頼関係で繋がってるって思ってただけなんだね』
紅海は笑おうとして失敗する…自分でも五条に酷い事を言っていると解っているのに気持ちが抑えられない
その一言で、五条の中の何かが、静かに軋んだ
彼女は知らない…
自分がどれだけ考えて、どれだけ選択して、どれだけ隠してきたか
守るために…巻き込まないために…でも…
今の紅海に、それはただの「拒絶」にしか見えていない
彼女の目から涙が落ちた
自分でも驚いた顔をする
『……ごめん』
反射的な謝罪
怒った事への謝罪…酷い事を言った謝罪
感情を出した事への謝罪
そして、涙を見せた謝罪…紅海にとって涙は反則だと思っている
涙を見せないように、踵を返し逃げるように走り出した
「紅海!」
五条が呼ぶが、紅海は止まらない
残された五条は、しばらく動かなかった
ようやく小さく息を吐く
「……最悪」
はぁ~!
五条は頭を抱えてしゃがむ…紅海を傷つけた