第30章 呆然と失墜
紅海の視線は領域へ固定されたまま
濃密な呪力
だが……薄い部分がある、均一ではない
膜の一部が微かに揺らいでいる
生まれたばかりの領域…完全ではないのかも
『虎杖くん。これ……外から壊せる可能性がある』
声は落ち着いているが、胸の奥は冷えていた
『早くしないと……術式次第では七海が――』
言葉を飲み込む
中にいるのは合理で動く男だ
だが領域の必中効果の前では理屈は通らない
一瞬、判断が揺れる
自分が入り領域展開で領域を破るか…相性が悪い場合も…
それか…二人で突入するべきか
――ダメだ、迷いは判断を鈍らせる
そのせいで、前回――
「先生!」
虎杖が真っ直ぐ言った
「俺、アイツの攻撃効かなかったんだよ!
俺がナナミンの所行く!」
紅海の瞳が虎杖をとらえる
この子はもう、覚悟を決めてる…止める理由はない
『……了解』
短く息を吸う
『信じてる…絶対、命を投げ出す真似だけはしないで』
虎杖が頷く
次の瞬間、彼は躊躇なく――領域へ飛び込んだ
膜が歪み、割れ虎杖は暗闇に呑み込まれていく
紅海は即座に動いた領域を壊すために
七海の命が懸かっている、躊躇している時間はない
地面へ膝をつき、グラウンドの砂を両手で掴む
ざらり、と指の隙間を流れる感触
お願い……七海、待ってて
砂粒一つ一つへ呪力を限界まで叩き込む
立ち上がると同時に、領域の周囲を駆けた
夜風を裂く足音
円を描くように、呪力を帯びた砂を撒き散らしていく
結界構造の“継ぎ目”を探る
――感じる
魂が、わずかに震える
紅海は掌印を結び呼吸を落とす
掌を領域へ向けた
『――霧香(きりのか)』
放たれた砂が、霧のように分解される
粒子化した呪力が、領域の決壊点へ染み込む
領域に細かい呪力が砂に込められ侵食していく
そして――パキン
音もなく、領域が崩れた
紅海の膝がわずかに揺れる
『……っ、はぁ…はぁ…』
同時に内部が露出する
交戦しながら飛び出してくる二つの影
虎杖…そして七海
「流鏑馬さん、ありがとうございます」
七海が即座に状況を把握する
『無事で良かった……二人とも』
安堵する暇はなかった
前方には傷だらけの 真人
呪力を使い果たしたはずの身体が、異様に膨れ上がる
最後の足掻き歪んだ笑みをしている