第30章 呆然と失墜
――里桜高校
全体に帳が降りていた
生徒達はどこに行ったのか…校舎内に人の気配はない
だが濃い呪力が、空間に沈殿していた
紅海は着地と同時に呪力の流れを読む
戦闘中…しかもかなり近い
グラウンドの方へ回った瞬間
視界が開けた…戦うスーツ姿の男
拳を構える少年
そして——歪な人型
『…っ』
息が止まる
『虎杖くん……?』
少年が振り返る…虎杖悠仁だ
確かに、あの日、心臓を貫かれたはずの少年が生きている
理解が追いつかない
悟は何も言っていなかった
…いや、今は考える時間ではない
七海建人が、ツギハギの呪霊に打撃を叩き込む
呪霊の身体が歪み、壁へ叩きつけられた
七海の優勢…誰が見てもそうだった
広いグラウンドを駆け、紅海は戦い渦中へ向かう
嫌な予感がしたから
ゆらり、と立ち上がる呪霊…真人
その顔は快楽か悟りか…
真人のその表情を見た瞬間、紅海の背中が疼いた
祭の夜に触れられた場所だ
魂を直接撫でられた感触だけが蘇る
『…あの時の』
真人の視線が、駆けてくる紅海を捕らえる
口角が、楽しそうに歪んだ
「へぇ…来たんだぁ?」
七海が一歩踏み込む
「流鏑馬さん、距離を——」
言葉が終わる前
真人は死への理解が追い付く
そして歓喜する…口腔内で印を結ぶ
壁でも結界でもない…何かの内側へ引きずり込まれる感覚
領域展開――
――自閉円頓裹
空間が軋む呪力の質が一段、変質し
――空間が閉じた
七海が完全に巻き込まれる
『七海!』
紅海が踏み込もうとするが
判断する
あの呪霊…魂に直接干渉するんだ
もしそうなら防御が意味を持たない
触れられた瞬間、終わるのでは
最悪の場合七海が劣勢になるし命の危険も有る
その時背後から声がする
「紅海先生!」
虎杖が並ぶ
息が荒く…今までいくつか戦ってきた目をしている
『虎杖くん…聞きたいこと、山ほどあるけど…話は後…』
紅海の呪力が静かに立ち上がる
地面に展開された異様な球状空間
生き物の内側のような、歪んだ呪力の膜
真人の領域展開
その外側で、紅海は息を整えながら立っていた
横で息を切らしながら、虎杖悠仁が言う
「アイツの術式、身体を変型させられたら終わりなんだ!
…呪霊みたいになって、倒さなきゃなんなくなる!」