第29章 信頼と恋敵
一方…五条はポケットに手を入れたまま歩いていた
街灯の下を通り過ぎながら、 小さく息を吐く
さっきの返事…間違えた気がする
“普通に女性だからね”
絶対違う方向で受け取った可能性有るな…
紅海の顔を思い出す…納得した顔してた
あれは、絶対に僕を“誰にでも優しい人”って解釈してる
軽く眉を寄せる
「いや違うんだけどな…しまったな」
小声で呟く
本当は、全部、紅海だからに決まってる
完全に特別扱いしてる
でも、それを本人に言う気は無い
わざわざアピールしてもね…
自分が想っていれば十分だと言い聞かせる
その2人の背中を、コウモリが空から見下ろす
遠く高い建物に人影…
夏油傑の姿だ
コウモリに憑依した呪霊を媒介にした視界の中で、 二人の距離を観察している
「なるほどね…」
静かな独り言
「思った以上に深い絆だなぁ…」
紅海の中の千年以上前に途切れたはずの巫女の魂
真人の接触で揺らぎ始めている
復活の兆候だ
「復活した場合…」
薄く笑う
「彼らより先に、彼女を懐柔しなければならないな…」
巫女が目覚めた時、 紅海の記憶も人格も引き継ぐ可能性が高い
つまり五条悟始め家入硝子、七海建人…遊佐由布湯
高専側に情が残った場合、それは計画の障害になる
これまで誘拐を試みたのもそのためだった
呪詛師や呪霊…自分の姿を世間に晒さず、 強行的に確保するため
「まぁ焦る必要はない…私たちは、いわゆるライバルと言うやつかな?」
復活は近い…だからこそ慎重に
最も揺らぐ瞬間を待つ
「さて、平安の巫女…君はどちらを選ぶのか」
夜風に溶けるように、 呪霊の視界が途切れた
═高専宿舎
部屋のドアに手が掛かる時
五条は、ふと足が止まる
今夜の紅海の行動を思い返す
誘ったら普通に僕の部屋に来た
優しいからってだけで、男の部屋とか普通に行くタイプじゃないよな…?
まさか、今日の出張で由布湯の家とか行ってないよな?
部屋に来たのは、僕だからであって欲しい
それはそれで、逆に、男として見られてないのか…
はたまた信用されてるだけなのか心配するところだが
「人に線引き厳しいくせにさ
自分は無自覚で無防備なんだよなぁ…」
玄関の敷居を越える
その声は、 苛立ち半分心配半分
そして、ほんの少しの独占欲が混じっていた