第29章 信頼と恋敵
「そりゃあ…紅海ちゃんの事が心配やから、としか言われへんな」
嘘はないし牽制でもない
電話越しにわずかに笑う気配がした
「……そっか解ったよ。紅海の事は気にかけとく」
柔らぐ声
「由布湯、ありがとね」
遊佐は微笑む…ちゃんと礼、言うんやな
「別に礼言われる事ちゃいますよ……五条さん」
「ん?」
「紅海ちゃん、強いけど……一人で抱え込む人やから」
「知ってる」
迷いなく即答だった
遊佐は小さく笑う…
そら、そうやわな
この男は、自分より、もっと前から彼女を見てきたんだから
「ほな、任せます」
「あぁ…任された」
通話が切れる
遊佐はスマホを下ろした
遠く離れた東京には、同じ気持ちで彼女を待つ男がいる
「……ほんま、やりにくい相手やわ」
そう呟いて、遊佐は歩き出す
東京══某駅
人の流れは途切れず…アナウンスやキャリーケースの車輪音が響く
やっぱり、もったいなかったよねぇ…
京都にいた時間より、移動の方が、あきらかに長い
紅海は、書類を入れるだけの仕事用の鞄を持ってゆっくり改札口へ向かう
『ん?』
スマホが震える
画面に表示された名前を見て、紅海は少し目を瞬いた
悟?珍しな…
『はーい、どしたの?』
雑踏の中で電話に出ると軽い声が聞こえる
「東京に紅海がいないと思ったから電話した
……と思ったら、帰ってきた…」
『え?なに、それ?』
意味が分からず笑う
その時、視線が、自然に前へ引かれた
改札口の向こうに人混みの中で――明らかに浮いている存在がいた
高身長、サングラスに黒い服…五条だ
術式を使っていないのに周囲の人々が避ける様に空間が広がっている
『え!?どしたの?』
思わず声が上ずる
スマホを数センチ耳から離しながら改札を抜ける
人波をすり抜けて近づくと、五条は軽く手を上げた
電話越しと同じ声が、今度は直接届く
「おかえり」
『た、ただいま…え?何?迎えに来たの?』
「うん」
紅海は意外そうな顔をする
「由布湯から電話があって、丁度近くを通ったからね」
その名前に、紅海が少し驚く
『え、遊佐くんが?なんで?』
「祭で何かあったんでしょ?心配してたよ?」
もちろん、自分も心配だからだが、それは言わない