第29章 信頼と恋敵
脳裏に浮かぶのは、あの男
飄々としているくせに、決定的な瞬間だけ絶対に譲らない男
互いに理解している…言葉にしなくても分かる
――同じ場所を見ていることを
遊佐は軽く息を吐いた
「……まぁ、あの人とはなぁ」
曖昧に濁す
敵意でもなく、奇妙な信頼感
あの男なら、命を懸けても紅海を守る
自分と同じ温度で彼女を想っている事も知っている
発車ベルが鳴る
「……ほな、行きや」
遊佐が少しだけ後ろへ下がる
紅海が乗り込み、ドアの前で振り返った
『またね、遊佐くん』
その言葉に、遊佐はニッコリと笑う
「――次、いつ来はる?」
紅海は考えるように首を傾げてから笑う
『また、すぐに行くよ』
くすくすと笑う
保証のない約束なのに、それでも十分だった
ドアが閉まり新幹線が動き出す
遠ざかる窓越しに小さく手を振る姿を、遊佐は動かず見送った
列車が完全に見えなくなってから、ようやく息を吐く
「……ほんま、罪な人やわ」
東京には、同じ人を想う、最強がいる
遊佐はポケットに手を入れ、静かに笑った
負ける気、あらへんけどな…
夜の新幹線が東京へ向かって走り出した頃
京都駅の外に出た遊佐は、人の流れから少し離れた場所でスマホを取り出した
一度だけ深呼吸して通話ボタンを押す
数コールして
「……はい、何?」
出た声は、驚くほど素っ気ない
挨拶もないし名乗りもない
遊佐は苦笑する
相変わらずやな、この人
「五条さん…こっち紅海ちゃん来ててんけど」
「……」
――沈黙…よし、切断されなかった、狙い通りだ
通話の向こうで空気が変わるのが分かる
「紅海ちゃん、祭で、なんか有ったらしいで、報告書出した言うてたけど……多分、自分の事は書いとらんと思う」
数秒…
そして機嫌の悪そうな声
「は?聞いてないんだけど」
遊佐はすぐに言葉を重ねる
「あんま怒らんといてや…五条さん出張とかで忙しそうやから言うてたしな?」
少しの沈黙…おそらく向こうで思考が走っている
「……で?なんで、わざわざ僕に教えてくれたわけ?」
試すような問いをする
遊佐は苦笑して肩を壁に預けた
夜風が少し冷たい