第29章 信頼と恋敵
店内のざわめきの中で、彼女の声だけが妙にまっすぐ届く
『次からも、遊佐くんと一緒に食べに行きたいから
奢られたら、今度から行きにくくなるでしょ?』
――その一言
「っ!!次からも!?」
遊佐の思考が完全に停止する
頭の中で言葉だけが何度も反響した
次
次
次もある前提!
紅海ちゃん、それはあかん
破壊力が高すぎる
さっきまで冷静に補助監督していた男の内心が、一瞬で崩壊する
いや待て落ち着け遊佐由布湯…これは社交辞令の可能性…
いや紅海ちゃんがそんな高度なこと言うタイプか?
ちゃう…天然や、つまり本音や
心拍数だけがやけに速い
紅海はそんな内面の騒ぎなど一切気づかず、伝票を握ったまま首を傾げた
『ね?』
追い打ち
完全に敗北!
遊佐は観念したように小さく息を吐いた
「……ほなら、割り勘で」
財布を閉じる指先が、少しだけ震えている
いや、負けたわけではない
ただ――
「次」が保証されたことの方が、よほど価値があった
店を出ると、夕方の風が少し涼しい
紅海は何事もなかったように歩き出す
遊佐は半歩後ろで、その背中を見る
……あかん、ほんま、好きやわぁ
京都駅のホームは、夜でも人の流れが絶えない
新幹線が入線すると、風が巻き上がる
改札まで送るつもりだったのに、気づけば遊佐はホームまで来ていた
別れの距離を、少しでも引き延ばしたかったのかもしれない
「……ボクも、東京に転籍願いでも出そかなぁ」
軽く言ったつもりだった
けれど、本音は半分以上混ざっている
紅海はすぐに振り返る
『遊佐くんが、京都にいないと大変になっちゃうよ…』
否定ではない…心配する声だった
遊佐は小さく肩をすくめる
「でもな。ボクも紅海ちゃんと一緒に働きたいしな?」
紅海は少しだけ困ったように笑った
『遊佐くんは、京都に必要な人なんだから…京都で頑張って欲しいよ』
本気で、自分の役割を信じている人の言葉
だから余計に刺さる
『交流戦で、また会えるしね?』
少し明るく言葉を重ねる。
『連休とって遊びに来てくれてもいいし……悟、遊佐くんの事気に入ってるから、喜ぶと思う』
一瞬、遊佐の表情が止まった
……気に入ってる?
いや、あれはどう考えても違う
ライバルやで、完全に
内心で即座に否定する