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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第28章 祭と涙


金魚の亡骸が、水面に浮かんだまま揺れている

屋台の店主が困惑した顔で網を持ち上げた
「…なんだこれ、病気か?」
周囲の客は気味悪そうに距離を取る
誰も、原因を理解していない

紅海は一歩下がった
袖の内側で、わずかに震えている自分の指に気付く
背中を触られた感触だけが残っていた

背中より…身体の奥…魂を撫でられたような、不快感
『…気のせい、だよね』
小さく呟くが、一瞬の隙を作ってしまった自分に反省する
先程の呪霊の気配はもう無い
硝子の元へ戻ろうと足を運ぶが
さっきまで普通だった祭の世界が、少しだけ遠い

硝子が相変わらず飲み屋台で、店主と談笑していた
「お、戻った?」
紙コップを軽く掲げる
「どした?顔白いぞ?大丈夫だった?」
一瞬だけ…言いそうになるが
今はもう大丈夫…後日、報告しよう…
何事もなかったんだ…と自分に言い聞かせて

紅海は笑った
『ん~、私の勘違いだった…人多くてちょっと酔ったかも…』
「人酔い??」
硝子は数秒、紅海を観察した
「なら水飲め」
差し出されたペットボトルを受け取り口につける
冷たい水が喉を通り気持ちが少しスッキリする
そして、大丈夫…そう言い聞かせる

遠くで花火の試し打ちが始まった
夜空が一瞬白くなる

紅海は、ほんの僅かに首元を押さえた
あの時と一緒の感覚…宿儺に噛まれた場所
魂を撫でられた感覚

「先生、花火始まりますよ」
伏黒が呼ぶ声

紅海は振り向く
『行こっか…』
教師の顔に戻る
『硝子はどうする?』
「ココでも高く上がるのは見えそうだから、ここにいる」
『解った…じゃ、後でね?』
笑って生徒達の輪に入り歩き出す

けれど…人混みの遥か向こう
提灯の影の中で誰かが退屈そうに呟いた気配がした

「やっぱり、壊し甲斐ありそう」

人から産まれたツギハギの呪霊…真人は楽しそうに笑う
純粋な好奇心…子供が新しい玩具を見つけた時の顔だった

「ねぇ?あれ、絶対普通じゃないよ…
魂が3つくっついてた…そんな事有る?
しかも――俺の術式、拒否したんだよね」

声の奥に、初めての“興奮”が混じる
真人にとって魂は粘土だ
触れれば変わる壊れる

それが当然だった
流鏑馬紅海の魂は違った

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