第28章 祭と涙
寮に近くなると、もう祭の音が届かない
屋台の匂いも消えて、明かりも少なくなる
残っているのは夜の蒸し暑い空気だけだった
五条は、いつもなら絶対にしないであろう
紅海の歩幅に合わせて歩いている
隣の紅海は、ほとんど意識が飛びかけていた
『……ついた?』
「着いた…ほら、鍵」
差し出した鍵を受け取る動作すら危うい
部屋に入ると、ほっとしたのか、紅海の力が抜けた
壁に手をつきながら立つ姿に、五条は一瞬手を伸ばしかけて――止めた
……どう優しくして良いのか解らない
傑なら支えてるか?何か声かけてるか?
何をすれば優しくて、何をすれば限度を超えているのか…
「ちっ…ちゃんと着替えろよ…浴衣で寝んなよ」
『うん……』
紅海は素直に頷き、帯へ手を掛けた
目の前で、ほどこうとする
「待て待て待て待て!」
思わず声が裏返る
「お前っ!何、俺の前で着替えようとしてんだよ!」
『え?』
一拍遅れて理解した顔
『あ、そっか……へへ、ごめん
じゃあ着替えてくるね』
奥の部屋へ入っていき扉がしまる
五条はその場に立ったまま動けない
ん?……これは、待ってろってこと?
体調的には顔みて帰った方が安心か?
考えかけた瞬間
ガタン
鈍い音
「……おい?紅海?」
返事がない
嫌な感覚が走る
「紅海?」
扉の前
「開けるぞ」
扉を開ける
着替えかけの紅海が床にしゃがみ込んでいた
浴衣は半分ほどほどけていて…
幸い、胸元の少し広がったバレエネックのTシャツを着ている
五条は一瞬だけ視線を逸らす…
いや、今はそれどころじゃない
身体を抱き起こす
「……お前ほんとバカ」
『ごめんね……』
弱い声
『せっかく楽しいお祭りだったのに、皆、楽しめなくなったかも』
皆、優しいから…と
「だから、別に――」
遮るように続く
『傑とお祭り行きたかったでしょ?』
「は?何でそーなるんだよ!」
『だって、悟、傑と仲良いもん』
反論しようと紅海を見ると
彼女の目に涙が溜まっている
熱のせいか、罪悪感のせいか…涙が、ひとすじ零れた
自分のせいで泣いているみたいで、落ち着かない