第26章 死と距離
五条はベッド脇まで来る
いつもの軽い調子はない
手をポケットに入れたまま、しばらく何も言わない
少し息を吐いて
椅子を引いて座る
紅海の顔をみると…少し泣いた跡が見えた
修復しきれていない乱れた呪力の流れ
そして――病衣の襟元から覗く、はっきりした歯形
そこに冷たい目線を送ってしまう
けれど五条は何も指摘しない
「……大変だったね」
紅海の喉が詰まる
『……虎杖くんを…わたし……守れなかった』
視線を落とす
『判断が、遅かったと思う…
一瞬、領域展開するか悩んだ…考えた隙に…取り返しが付かないよ』
五条は遮らないし否定もしない
ただ静かに聞いていた
「あいつら、君が行かなかったら、もっと最悪な結果だったよ?」
『でも結局…』
「結果だけで自分を責めんなって」
『ごめん…』
「謝んな…」
重い沈黙の後紅海が戦いの形跡をなぞる
『……宿儺に』
躊躇いながら口を開く
『呪力を……弄られた感じがする』
五条の顔が、ほんの少し上がる
『触れられて……吸われて……魂の中まで覗かれたみたいで……』
声が弱くなる
『でも、今回の事で…多分……わたしの術式…
使い方が他にも有るのかもって、気付きの切っ掛けになった
自分が思ってるよりも、私の呪力は柔軟って言うか
呪霊からすると呪力が扱いやすいんだと思う』
視線をシーツへ落としたまま続ける
『だから昔から、呪霊に狙われやすかったんだって…』
大量の呪力を簡単に吸い取れるなら、幼い頃から狙われていた事に合点が行く
『あとね、やっぱり、わたしの事、巫女がどうのって言われて…
わたしは、わたしなんだけど…もしかしたら、術式の進化?に繋がるかも…とか思いはある』
この子は、本当…悠仁には、怖いとか言ってたのに
どこまでも呪術師だなぁ…
だから、こんな痕付けられても平気な振りをする
それに…もっと深い接触があったはずだ
何も思ってないわけ無い…
首元の噛み跡を見つめている―呪力の残滓が見える…