第26章 死と距離
虎杖が首をかしげる
「五条先生?」
「ん?」
「…そうだろうな~って、顔してるね」
五条は肩をすくめて
「まぁね…なんとなく気付いてるよ」
次の言葉はほとんど独り言だった
「昔からそうなんだよ、あの子は…」
高専時代を思い出す
怪我をしているくせに笑っていた顔
任務で誰より前に立つくせに、評価には興味がなかった姿
自分には絶対に弱音を見せなかったこと
……僕には言わないんだよなぁ
ほんの一瞬、笑みが消える
虎杖が聞く
「二人って同期なんでしょ?」
「そ…腐れ縁」
軽く答える
「でもさ、悠仁」
五条は視線を戻す。
「紅海が、君に“怖い”って言ったなら
君のこと、ちゃんと信頼してるし成長して欲しいから言ったんだよ」
「え?」
「弱いところってね、誰にでも見せるわけじゃないからさ」
虎杖は黙る
理解しきれないけど、重みは伝わる
「……そっか」
五条は空になった缶をごみ箱に入れる
そして何気なく聞く
「で、怪我とかしてないの?」
「してないよ」
「じゃあ合格」
背を向けて歩き出す
虎杖が呼ぶ
「五条先生!」
「なに?」
「紅海先生ってさ、なんか守りたくなる人だよね」
五条の足が一瞬止まる
五条は笑った
「――でしょ?悠仁解ってるね~」
振り返らないまま手を振る
去っていく背中
どこか、五条は考え込んでいる
「でも、なかなかこれが、守らせてくれないんだよね」
誰にも聞こえないひとり言
紅海は以前『守られるのは好きじゃない』って言った
紅海って、呪術も体術も強いんだよね
術師として見れば、疑いようがないくらいに
判断力もある…誰より前に出るし、誰より無茶をする
でも――あれは強さじゃない
壊れ方を知ってる人間の動きだ
自分が傷つくことを、最初から計算に入れてる
守れたならそれでいいって顔をするけど…
本当は「自分がいなくてもいい」って思ってる奴の選択だ
だから怖いんだよ
あいつは助けを求めない…限界まで笑って、限界を越えても笑う
最近思う…紅海を守りたいんじゃなくて
あいつに、ちょっとくらい“守られても良いんだ”って覚えてほしいだけなんだ
だから、もし、紅海が守らせてくれないならば
せめて折れた時に支えになれたらと五条は密やかに思う