第26章 死と距離
紅海が顔を上げる
『そうなんだ…辛かったね…』
「だから、なんか……ちょっと紅海先生の気持ち分かる気がするよ」
その言葉に、紅海の目がやわらぐ
少しだけ似てるのかもな…いや、虎杖くんの方が私よりシッカリしてるかも
守ってくれた大人がいて
その背中を見ていた者同士の共通感覚
『虎杖くん、真っ直ぐだよね…』
「え?」
『真っ直ぐだから…心配しちゃうけど…でも、これから呪術師として、色々な感情を乗り越えて欲しい…』
「え?」
虎杖は首をかしげる…紅海はニコッと笑い立ち上がる
『明日は虎杖くんの任務に同行するから、宜しくね?』
翌日―ゲームセンター跡地
夕方の光が、割れた窓から斜めに差し込んでいる
低級呪霊の巣
任務としては訓練に近い分類だ
だが――数が多い
壁の影から、床の隙間から、天井の染みから
黒い歪みが次々と湧き出す
『…多いなぁ』
紅海は軽く肩を回す
次の瞬間…踏み込む
床を蹴った音が一度鳴り、姿が消える
虎杖が呪具で1体倒す間に、紅海は…
呪力を纏った回し蹴りが呪霊の核を正確に砕く
着地と同時に次の呪霊へ流れるように身体が回転し
掌底、肘打ち、蹴りで呪霊の群れを薙ぎ払う
一撃一撃に、無駄な力がない
虎杖が思わず声を上げた
「紅海先生、凄いね!」
紅海は振り返らないまま答える
『んー? そう?』
息も上がっていない
だが虎杖は気付く
五条とは、また違う、流れる動き
そして、呪霊が自分に近づく前に消えている
気づけば、虎杖の周囲だけ安全圏になっていた
『虎杖くん、後ろ!』
「え?」
反射的に振り向いた瞬間
背後の呪霊が紅海の呪力のこもった何かの破片で散らす
『最初はね、祓うことに慣れた方がいいと思う
怖いまま戦うと、判断が遅れるから…
虎杖くんは、まだ呪霊に対して現実味が無いのかもしれないけど…』
虎杖は少し考える
「…先生は、最初から平気だった?」
一瞬だけ紅海の動きが止まる
『全然…』
小さく笑って首を振る
『むしろ、ずっと怖かったよ…
今でも、ちょっと怖い』
虎杖は目を丸くする
「え、でも先生、余裕そうじゃん」
『余裕そうに見せるのも仕事だね』
軽く言ったが、視線は前を向いたまま呪霊を祓う