第25章 休暇と浴衣
繁華街の灯りが背後に遠ざかる
提灯の赤が途切れ、
石畳だけが静かに続く細い路地
五条はまだ紅海の手首を掴んだまま歩いていた
少し早足
――さっきの言葉
僕でさえ触ったことないのに…
脳内で何度も反芻される
ヤバい、何言ってんの僕
紅海に、引かれたかも…
気持ち悪いと思われたかもしれない
珍しく、思考が落ち着かない
『ね、悟?怒ってる?』
あ、しまった…紅海の事、ずっと引っ張ってるまんまじゃん
パっと掴んでた手を離す
「怒ってないよ」
そりゃあ、そうなるよね…
自分は、昔から何でも器用にこなせる人間だと、ずっと思ってきた
それなのに、紅海の事になると、どこか調子が崩れる
それで、コレ…怖がらせてしまったかも
「…嫌だったでしょ?ごめんね」
紅海が瞬きをする
『なんで?悟が謝る意味わかんないよ』
柔らかく笑う
『全然平気だよ?いつも、もっと怖いの相手にしてるんだし…ね?』
その言葉に五条の眉がわずかに寄った
「平気じゃないでしょ」
間髪入れず返す
「僕さ…紅海なら大丈夫って思ってた
強いし、余裕で返り討ちにするだろうなって」
『そりゃ、まぁ…そうだよね…何人も相手に倒したりしてるもんね』
それなのに、酔っぱらい2人をあしらえなかった事に紅海は苦笑する
「でも違った…普通に、嫌がってたし
強いとか呪術師とか、そういう話じゃない
紅海、女の子なんだしさ」
紅海が吹き出す
『え、いや、女の子って言う年齢じゃないよ』
「年齢の問題じゃない」
紅海が首を傾げる
『…ふふっ』
「なに?」
『悟、本当に今日は私に甘いね?』
「旅行中の僕は甘いって言っただろ?」
いつもの調子で軽く言う
紅海は夜空を見上げる
『そっか…そうだね』
にっこり笑う
その横顔を見て
五条は自分の中の気持ちに気付く
さっき紅海が触られた瞬間
胸の奥で何かがはっきり形を持った
――紅海に触るな
自分でも驚くほどの感情
五条は無意識に一歩近づく
距離が、さっきより近い
本当は抱き締めたい…
「…紅海」
『ん?』
紅海の浴衣の袖を軽く摘まむ
「もう少し歩こう?
静かなとこ」
紅海が頷く
二人は並んで歩き出す
夜の温泉街は静かだった