第25章 休暇と浴衣
旅館の部屋
紅海が荷物を置いて一息ついた頃、廊下側の扉の向こうから声がした
「紅海〜、温泉行く?」
『あ、うん!今行く』
支度を整えながら答える
男女の暖簾の掛かった前で待ち合わせの約束をする
「じゃ、先出てたら、そこで牛乳飲んでようかな」
『ふふっ、じゃ、また後でね』
温泉を堪能した後、紅海は浴衣に袖を通す
温泉地特有の柔らかい布地
帯を結び、鏡を見る
いつもは無造作にまとめる髪を、今日は団子状にまとめ
うなじが、自然に見える
小さく笑って、脱衣所を出る
温泉上がりの休憩スペース
自販機の前に牛乳瓶を手に、壁にもたれていた五条がいた
浴衣姿でも、妙に絵になる男だ
牛乳を飲もうとした手が止まる
視線の先の浴衣姿の紅海…
一瞬、思考が遅れる
普段見慣れているはずなのに
“女性”として再確認する
「……紅海」
『ん?なに?』
パタパタと近づいてくる
ヤバい…可愛い所じゃない
もっと厄介な感覚が沸き上がる
触れたい…凄く触れたい
平静を装い五条は瓶牛乳を差し出した
「ほら、風呂上がりの定番」
『へへっ、ありがとう』
受け取る仕草まで妙に可愛い
紅海が牛乳を飲む
こく、こく、と喉が動く
視線が逸らせない
「…紅海さ」
『なに?』
「いや、何でもない」
『え?』
きょとんとした顔
こんなに破壊力が有るとは思わなかった
五条は少し笑う
「浴衣、似合うね?」
紅海の頬がじわっと赤くなる
『そ、そう?温泉だし普通だよ?悟も似合ってるよね!』
「はぁ…」
五条は、パンパンと手のひらで自分の頬を叩き気分を変える
五条は牛乳を一気に飲み干して
「やっぱ、似合ってる?さすが最強の男だね!」
瓶を置きながら、おちゃらける
だから軽く笑って言う
「今日は特別に他にも奢ってあげよーか?」
『えー?さっきから奢ってばっかりじゃん』
「旅行中の僕、甘いからね〜」
そう言いながら、
ほんの一瞬、ついつい紅海のうなじに視線を落としてしまう
『確かに、いつもより悟、優しい気がする』
「でしょ?」
五条は肩を竦める
冗談半分に答えている様で、どこか満足そうだった
紅海は少し考えるように視線を泳がせる
『って言うか、高専の時より、悟って優しくなった気もする…』