第25章 休暇と浴衣
駅の改札前
柔らかい空気が流れていて、気候は丁度良い
『悟、こっち〜!』
人混みの中から手を振る紅海を見つけて、五条は足を止めた
一瞬だけ、視線が静かに止まる…いつもの任務服ではない
淡い色のワンピースに薄手のカーディガン、髪も下ろして整えてあるし
少しメイクもしてる?
思いっきり“旅行仕様”
「紅海、早いね…僕のが先についてると思ったのに」
『へへっ、待たせたら悪いかなって思って』
少し照れた笑い方
五条の胸の奥が、分かりやすく緩む
僕のために準備したんだ…それだけで十分
「じゃ、行こうか」
『楽しみだね〜』
電車の窓際
流れていく景色が徐々に都会から離れていく
車内は静かで、揺れも穏やかだった
紅海は窓の外を見ながら、小さく声を漏らす
『こういうの久しぶりだなぁ…』
任務移動ではない電車
時間に追われないゆっくりとした移動
五条は向かいに座りながら紅海を見ている
彼女の完全に力を抜いた表情を見て
それだけで来た価値があると思う
「前からさ、こういう休み欲しかったんだよね」
『悟、忙しいもんね』
「うん、でも今回は確保した」
少し得意げに口角を上げる
紅海は笑う
『ありがとう、誘ってくれて』
その一言に、五条のテンションが静かに上がる
今日は少し機嫌が良すぎると、五条は自覚している
温泉街
石畳の道、石段
湯気の立つ足湯
土産物屋から漂う甘い匂い
『わぁ…いいね、こう言う所』
紅海の目が完全に観光客でキョロキョロしている
五条はそれを見て笑う
「まず何する?」
『食べ歩き!』
「だよね〜」
二人並んで歩く
温泉まんじゅうを半分こにして、熱さに少し慌てる紅海
『あつっ』
「猫舌でしょ?」
『違うもん』
軽口が自然に続く
射的屋の前で立ち止まり、紅海が興味深そうに銃を覗き込む
「やる?」
『え、いいの?』
結果
紅海は一発も当たらない。
『えっ、むずかし…』
「貸してみなよ」
五条が軽く構えて撃つと、景品が次々落ちる
店主が苦笑するレベルだ
『悟、ずるい!』
「何が?僕の才能だからね?」
そう言いながら、ぬいぐるみを渡す
『あ、ありがと…』
受け取って笑う
その笑顔を見て、五条はふと考える
ただ彼女が隣にいる時間が、こんなに静かに満たされるのかと思う