第23章 指と欠片
『なに?』
紅海が振り返る
五条は、手を掴んだまま止まっている
……何してんの、僕…自分でも分からない
反射的だった
止めるつもりも、言うことも決めていない
ただ…
そのまま行かせるのが、少しだけ嫌だった
うわぁ〜、内心、自分に引く
最強、パーフェクト
そういう人間のはずなのに
こんな簡単な“会話”ひとつ、うまく処理できない
……どうすんの、これ
それなのに手は離さないままだ
そして、言葉が出ない。
普段なら、適当に何か言って終わるのに
でも今は——
それをやると、また同じことになる気がする
紅海が、ほんの少しだけ首を傾げ
不思議そうに困っている
…あー、もう
五条は観念する
「紅海…ゴメンって」
出てきた言葉は、それだった
『え?何が?』
本当に分かっていない顔
「えっと、あの時のさ…アッサリすぎた」
『あっさり?夜食のラーメン?』
間髪入れず返ってくる天然!
「違うって!」
思わず強くなる
「おまえ、わざと言ってんの?」
言ったあとで、少しだけ後悔する
おっと、違うだろ落ち着け自分
「わりぃ…」
視線を少しだけ逸らして、戻す
「違うって」
珍しく間を置き言葉を選ぶ
「紅海が不安そうに相談してたのに、ちゃんと聞いてやれなかったからさ」
紅海は、少しだけ目を瞬かせる
あの時のこと…気にしてたんだ?
『私が変な事相談したから…』
「変な事じゃない…紅海が不安だから僕を頼ってくれたんだろ?」
五条にしては、珍しく真っ直ぐだった
「あの時は、紅海がどんな気持ちで相談したのか考えられなかったんだよ、だから、事実が解れば良いのかなって思ってさ…」
言いながら、自分でも少しだけ苦い顔になる
「でも、紅海の表情暗くて…嫌われたかなって思ったら、何がダメだったんだって考えて」
言葉が、少しだけ途切れる
普段みたいに、流れていかない
ちゃんと探しながら喋っている
その違和感が、逆に本音だと分かる
紅海は、一瞬だけ言葉を失う
……考えてくれてたんだ
『そこまで気にしてくれてたんだ…ゴメン』
小さく笑う紅海