第6章 偽物の星空を語った日
カチ、カチ……。
意味のない羅列を数文字が打ち込まれては消え、消えてはまた打ち。
報告書は後三行からまったく進んでいなかった。
進むはずもなかった。
アグレイスの意識は、画面に目を向けている体を装いながら、わずかな視界の端で、彼の些細な動きや表情を追っていたのだから。
--あれから
どんなに顔が合わせづらくとも、任務の名のもとに引き合わされた。
危険を伴うオシゴトで、個人の事情など考慮には入らなかった。始まれば他に優先すべきことはない。
運よく生き残れば、酒を酌み交わし、バカをすればフォローし合う。
そうやって日々は過ぎて、痕が消えて、想いは薄れて、やがて忘れて、戻るはずだった。
戻ったはずだった。
しかし気づけば、二度目があり、三度目があり、さらにその先もあった。
求めたことも求められたこともある。そういう時間が増えていったのだ。
身近なソウイウコトができる対象だったのかもしれない。
それが正しい関係でないことは明白だった。
道行く気持ちを伴なったふたりに憧れない訳ではなかったが、
今、レノが目の前にいて生きていて、彼の瞳にアグレイスが映っている。
それ以上の何も望めなくなってしまった。
気づけば一年。
何も変わらない関係。
だが、中にあった熱はいつも間にやら冷めてしまった。
それでもレノなりの優しさは感じられた。冷めてはいたが、冷たくはない。
以前のような熱を分け合う時間は訪れないだけだ。
ひとりの夜に思う。
今、彼はひとりだろうか。彼女の知らない誰かとあの日のように過ごしているのだろうか。
自分だけが置いていかれたのではないかと、レノのいない時間が確実に彼女の思考を侵していった。