第5章 温もりを分けた日
ゼーゼーと吐く彼の荒い息が、白い靄に変わった。
ぼんやりとした頭にも、レノの赤い髪がはっきりと映る。
滑らせた足を気遣うように、担がれた腕を強く引かれた。
意識を残したまま引っかかった木の枝は二人分の体重を支える頼りはなかった。数度しなって、固い雪の上に落ちる。無情にも上着を切り裂かれたアグレイスは、寒さに震え、残された体力も尽きかけていた。雪はふたりの歩みを遅らせる。徐々にレノの背中が小さくなる。何度も背負おうと口にするレノ。何度も置いて行けと訴えるアグレイス。だが彼は全く聞く耳持たず--それでも彼女の意志を尊重するように、その背に腕を回して体重の半分を肩代わりするに留めた。
見渡す限りの白の中に浮かんで見えた洋館は、観測所として建てられ、捨てられたものだった。
重厚な扉を、乱暴なノックによって暴く。
埃っぽい館内は、古さに反してしっかりとした造りで雪風を防いでいた。
しかし、外が外。中も当然冷え切っている。
「使えるのはこれくらいか」
レノが手近な木の棚を壁に向かって蹴飛ばす。音を立てて割れた破片や乾いた中板を手に取ると、暖炉に放り込む。
「ファイア使えるか」
ソファの背に寄りかからせれていたアグレイスが体を起こす。
ノロノロと暖炉に近寄り、掌を向ける。
あっと声を上げる間もなく、大きな熱量が辺りを包み、火の渦を巻き起こした。
「おいおいおいおいぃぃっ!!」
素早い動きでレノが毛足の長い敷布を拾い上げ、バサバサと辺りの火の粉を叩き落とした。敷布に火が移ったのをみて、慌てて暖炉に投げ入れる。
「殺す気かよ」
フラフラとよろけるアグレイスは簡単に捕まえられてしまった。
「火が点きゃいいってもんじゃねえぞ」
橙色の光が辺りを照らすが、暖かさが満ちるまでには時間がかかりそうだ。
レノが三人に見える。焦点を合わそうと見つめるがぼんやりとしてきた。