第5章 温もりを分けた日
「ルード!!」
名前を呼んだだけで、彼女の意図を汲んだ。
振り返るレノ。その反応は、わずかに遅い。
ルードの伸ばした腕が、レノの袖を掴む--その一瞬を、アグレイスはやけに鮮明に見えていた。
彼を選んだ判断は正しい。
--巻き込まなくてよかった。
彼女が安堵した表情で微笑むと、同時に足元が崩れた。
砕けた氷が舞う。辺りは純白の雪埃に包まれた。
逆さまになりながら、彼女はすぐに思考を切り替えた。
急所の保護に衝撃の分散……最低限、生き延びるためにできることはまだある。
浮き上がる内臓の不快感に耐え、マテリアホルダーに手を伸ばす。
発動を待つばかり、その瞬間。
体が、強く引き寄せられた。
「どうして」
「どうして、だろうなぁ!」
落ちる前の一瞬を捧げた相手がそこにいた。
レノは笑っている。だが余裕なんてどこにもない。
アグレイスは迷うことなく、バリアを展開する。
彼の瞳と似た色の光が、真っ先にレノを包み込む。
ギシッと食いしばった口元が、怒りに滲む。もう冷静を装うこともできないのだろう。キリリと上がった眉が彼女の顔を責めるように睨みつける。
「この死にたがりが!!」
吐き捨てるような怒声。
そのまま彼は、彼女の頭を胸に押し付ける。
来る衝撃はすべて引き受けると言わんばかりに。
重なる二人を、幾重もの光が覆う。
ありったけの想いを込めた彼女の理は--
歪んだ空気となって、衝撃外へと逃がした。