第5章 温もりを分けた日
終わり際の興奮抑えきらぬ声に、アグレイスはぴしりと背筋を伸ばした。
珍しい。彼女が自身のことを”そんなこと”にまとめるのは。
「あなたはどうだったの?」
打って変わって気遣うような優しい声。
一瞬、きょとんとした後、記憶を辿る。
彼女が心配するような出来事はあっただろうか。
成功に終わったパーティの裏。
報告書を賑わすような”小さな”いざこざはいくつか起きていた。
客同士の軽いじゃれ合いに、招待状を持たないものによるちょっとした余興。
だが、どれも事態を発展させるほどのものにはならなかったはずだ。
「何もなかったと思うけど?」
「何も!? 何もなかったの!?」
テーブルをダンと叩いた音が響く。
男性だけでなく、女性の目線もこちらに向く。
「嘘でしょ! あんなドレスおくったのに何もないってどういうことよ!!」
「落ち着いて」
両手を振る姿をどこをどうしてか肯定とした彼女。声にさらなる迫力が加わる。
ドレス--という言葉に、思わず苦い記憶が引きずり出された。
一度目は酒のせいだった。少なくとも、レノはそう思うほど動揺していた。
では、二度目は? きっかけらしいものは、なかった……と思う。
失敗した彼女を励ますために? だが、過去何回もあったであろう失敗は軽口を交えた、彼なりの厳重注意で済んでいた。一度目を通じて、体を許しても良い対象としてしまったのだろうか。
相談しようにも、また”そんなこと”で終わってしまうことが怖い。
「ドレスクリーニングに出したわ。あんな値段すると思わなくて驚いたわ」
何もなかったと同じ語調で、別の話にすり替えた。