第5章 温もりを分けた日
ミッドガルの中心。言わずと知れた新羅カンパニーの総本山。
訪れた者は一歩踏み出した瞬間から圧倒されることになる。
これが室内かと感嘆の息を漏らすほどの巨大な空間には、幾層にもなる回廊を見渡す吹き抜け。遥か頭上から注ぐ人工光が、曇りひとつなく磨き上げられた床に淡く反射していた。
足早に行き交う人々は、スーツ姿の”いかにも”なサラリーマンもいれば、小さな子供の列もある。いかついヘルメットに武器を背にした兵士に甲高い声が上がれば、彼らも悪い気はしないようで、無言で敬礼を返す。
目を惹くものはいくらでもあるが、アグレイスが目を向けたのは、上階に伸びる二本の腕に見えるエスカレーターに挟まれたカウンターだった。見目麗しい”看板”たちが、優雅に見えて無駄のない動きで来訪者を迎えている。
中でも一際目を惹くのはもちろん彼女だった。前にしたスーツの男も。その後ろに控える作業着姿の彼も。皆、彼女の耳元で揺れるピアスを追っていた。きっとあれに手を伸ばして、艶のある髪に触れたいのだろう。
素知らぬふりをして列に並ぶと、「試飲をどうぞ」と、来客用の笑顔で彼女が瓶を差し出した。
「もうちょっとで終わるから、先行ってて」
周囲を気遣っての小声はアグレイス以外には聞こえなかったようだ。
「これどうしたの?」
「試飲用なんだけど、ちょっと訳アリで残っちゃって」
押し付けられた瓶は、見た目はただのポーションにしか見えない。
もっとも瓶の色が濃く、中身は液体ということしかわからないが。
「大丈夫。さっきの人も飲んでたから」
悪戯っぽく笑う彼女には勝てない。瓶のふたを飛ばして、一気に飲み干した。
耳に馴染みの良い声は、いつもより高く性急だった。レモンの浮いたソーダを手に取ると、瑞々しくも柔らかな息が混じった。ストローに口を付ける様にも抑えられない興奮が滲んでいる。
「いい人に出会えたみたいね」
パーティでの彼女を思い出し、感慨深く口に出す。
良いことがあった日、すごく嫌なことがあった日。
彼女はどちらの日の出来事を語る時もこの調子になる。だが、これは吉事の方だろう。
「うん? まあね。あの時の総務のお局ときたら……ってそんなことより!!」