第4章 振りほどくことができなかった日
アグレイスは、彼女が着るはずだったドレスへと視線を落とす。
「もう着る機会なんてないから、あなたあげる」と押し付けられた一着は、まるであつらえたかのようにアグレイスの体に合っていた。
せっかくだからと、見立ててもらった頬紅は、手に取るのも恥ずかしい桃色。
ごくりと喉を鳴らし、恐る恐る筆を撫でつける。
友人のように誰もを惹きつけるまではいかなくてもいい。
ただひとりからの一言がもらえたら。
「それが難しいんだけどね」
彼女の曲線に沿ってしなやかに落ちるシルエット。
体を捻れば、空気を纏った淡雪のように儚いヴェールがふわりと舞う。
鏡の向こうには優美なドレスに包まれた、分不相応な自分。
期待した分だけ、落胆も大きい。
--問題は、それだけじゃない。
これほど体の線を露わにするデザインで、武器をどこに隠したものか。
コルセットにナイフ。ガードルに銃。
昔見たスパイ映画の二番煎じ。
試行錯誤の末に恥も外聞もなく上司に相談した。
彼は無表情のまま、こめかみを指で抑える。
いつもとは違う緊張が生まれた。
「今回は不要だ」
いつもより時間をかけて出した結論は、会場内での「要人警護」。
--とは名ばかり。
実態は、場を華やかに見せるための”添え物”に近い。
いや、いざという時の盾だった。