第4章 振りほどくことができなかった日
些細な事にも反射的に意識が向く。これはもはや職業病だ。
店に入ってから、ちらりちらりとこちらを窺うような気配は、常に感じていた。それがどういうわけか一気に集中したのだ。
だが、その緊張は瞬く間に解けていった。
賞賛とやっかみ集めるわが社とはいえ、一介の受付嬢の命を狙う者がどこにいるというのか。
なんてことはない。吐息の音に耳を傾けた男たちが、彼女のふっくらとした唇の柔らかさを知りたくなっただけのことだ。
周囲を惹き付け過ぎるというのも考えものだろう。
現に彼女は、このパーティのためにしつらえたドレスを着ることができなくなってしまったのだから。
--秘書課の陰謀。
友人はそう結論づけた。
目立ちすぎる受付嬢への嫌がらせ。優秀な秘書課が用いる能力のすべてを使って手を回し、受付嬢は会社が用意した揃いのドレスで接客せよとの命令が下されたのだ。
よほど気に食わないのか、わずかに頬を膨らましては、それを吐き出すかのように不満をこぼす。
これは長くなる。
アグレイスは、やはりこちらを注視していた店員に見えるようにカップを持ち上げた。