第11章 密事
霜刃は大枯たちに事の経緯を伝える為、参の社を離れた。
鬼鮫が背負ってきた猪肉を背負い込んだ霜刃は、行きがけに小枯の頬に触れて、小枯を驚かせた。
「俺に足りなかったものを見た」
そう言って吹雪の中淡々とした足取りで石段をおりて行く霜刃を唖然と見送る小枯に、茅場が声をかける。
「お前はもっと人の心の機微を学ばんとな」
小枯は鬼鮫に引き寄せられながら頬を押さえてぼんやりしている。
「苦労だな」
鬼鮫に言って笑い、茅場は踵を返した。
それを見送って、鬼鮫は小枯を抱き寄せた。
吹き付ける雪氷の中、ただ小枯だけが温かい。鬼鮫は深く息を吐いて、小枯の髪に鼻を埋めた。
茅場と霜刃と話し、今こうして改めて抱き締める小枯は前の小枯と違う重みがある。
抱き返す小枯の手もまた、何かしら思うところがあるように、慎重だ。
「…南天さんと何を話しましたか」
「うん」
返事にならない返事をして、小枯は鬼鮫の胸に顔を埋めた。
「…私は覚悟を見た。それでいよいよ腹が決まったよ」
腕を伸ばして鬼鮫の首にかけ、引き寄せてその頬に冷たい頬を重ねる。
鬼鮫は目を見開き、一時きつく目を閉じてから小枯を強く抱き締めた。
小枯もまた目を閉じて鬼鮫を強く抱き返す。
雪片がうねるような白い風に巻かれながら、ふたりは抱き合ったまま寸の間お互いを確かめ合った。
「…私は必ずあなたを連れて経巡を出る。何があろうと最初に交わした約束を違えない」
鬼鮫は小枯の髪に積もった雪に唇をつけて、ふっと笑った。
あなたが拒否しようと、もう構わない。
拒絶されることへ恐れがなくなった。
拒絶されようと気持ちは変わらないし、小枯の思いばかり重く捉えるのは間違いと気付いた。
それは受容ではない。逃げだ。
鬼鮫はもう小枯から逃げない。
ひとりで抱え込ませなくていい。ひとりで抱え込まなくていい。
「…私も…」
鬼鮫の腕の中でその温みを抱き留めながら、小枯も笑った。
委ねるように、受け止めるように、柔らかく、穏やかに笑った。
「お前と里をおりるのが、本当に楽しみだ」