第11章 密事
鬼鮫と小枯は斎籠所に案内された。
斎籠所は本来祈願や修行の為の宿舎だが、ここは仕丁らの寮のような格好で使われているらしい。
「御祈願や御精進の方々は斎館へお通し致しております」
鬼鮫と霜刃を茅場のところへ先導した小萩が固い声で説明して小枯をちらりと見る。
「御二方は御祈願も御精進も無縁でしょうから、こちらへと宮司が…」
「如何わしい真似はしないから安心してくれ。まだそういうんじゃないんだ。私とこの人は」
苦笑して言った小枯に鬼鮫が顔を顰める。まだは要らないだろう。まだは。
「初音と稲穂が御用を勤めます。宮司の思し召しがあるまでお休み下さいませ」
「初音と稲穂はいつものお勤めをしてくれていい。私たちに手をかける必要はないよ」
「宮司のお言い付けで御座います」
「ならお前が用を足してくれ、小萩。初音と稲葉は南天の側に置いてやって欲しい」
南天もひとりでは辛いだろうから。
「…そんな心配すんのなら大人しく本巫女になりゃいいのよ。要らなく色気ついて、アンタらしくもない」
小萩がガラリと口調を変えて非難がましく小枯を睨んだ。
驚いた鬼鮫に小枯が気にするなと笑った。
「こいつは弐の牟礼の出で前は同じ療養所で働いてた同期だ。口は悪いが気は悪くない」
「…はあ」
気の抜けた顔で小枯と小萩を見比べた鬼鮫に、小萩は舌打ちした。
「全くお陰で大迷惑だわ」
「舌打ちは止めろ、舌打ちは。宮司に叱られるぞ」
「宮司の前で舌打ちするほどバカじゃないっての。ンッとに何なのよ。要らない仕事を増やしやがって」
「ふん?そういうところを見ると、晦日に初音に男舞をさせることになったな?」
「どうせアンタの入れ知恵でしょうよ?初音が青くなってたわ」
「うん…。初音には気の毒なことになったな」
「まあ…いいんじゃない?あのコは元々本巫女になりたくてここに来てんだから。稲穂や他のコみたいな行儀見習い擬きとは違うのよ」
「お前だって嫁入りに箔をつけたくて社入りしたクチだろ。初音を見習え」
「やかましい。初音よか私よ。仕事が増えたわ。どうしてくれんのよ」
「お前が男舞を教える訳じゃないだろ」
「アンタここで男舞を舞う男衆が誰だと思ってんのよ」
「…ああ、神成の連中か。初音は神成連に舞を教わることになるわけか。それは…申し訳ないことだな」