第10章 参の社
「盗品で取引しようというのなら足元を見られるのは当然のこと。無論経巡の立場も弱い。だから初枯さんも足元を見ることは出来る。双方交渉の余地はある。取り引きの何足るかを知る初枯さんと渡り合えないあなたではない筈ですが、何故安易に大金を払う必要が?」
茅場が僅かに痛い顔をした。鬼鮫は口辺を上げて続ける。
「私は初枯の要求を突っぱねることが出来る。初枯を痛めつけ、南天を盾に宝珠だけ取り戻す。その気になれば、全く他愛ないことだ。あなたの甥子への甘やかしに付き合いさえしなければ」
霜刃の動いた気配がした。
見れば肘から血の滴るのも厭わず、腕組みしている。
「悪くない」
薄っすら含み笑いした霜刃が、低く、低く呟いた。
「罪は贖わねばならぬ」
茅場が眉根を寄せて瞠目した。霜刃は笑みの引いた顔で茅場を凝視した。
「負うべきものを負わずして得たものに意味はない。痛みも平らくあって然るべき。経巡を再起するならば、その経緯に泥を塗ってはならない」
霜刃は腕組みを解いて、破れた羽織の袖を丁寧に捲りあげた。
「経巡は貧しくとも曲がらず歩んできた。後に語れぬ理無しを押し通すならば、いっそ永らえずとも良い」
血に染まって重たげな晒しを解き、霜刃は僅かに眉を顰めた。鮫肌に削られた傷を見、溜め息を吐く。
「品のない得物を使う…。返す返すも虫の好かぬ」
「それは何より。全く同感ですよ」
小枯を挟んで相容れることのない霜刃に鬼鮫は素っ気なく言った。
認めなくもないが、好ましいとは思えない。
鬼鮫の言葉など耳にも入らない様子で傷の手当てを始めた霜刃を尻目に、鬼鮫は茅場に向き直った。
「小枯を南天とかいう巫女の代わりにはしません。よしんば小枯がそうすると言っても、私はそれを許さない」
「お前が許さなくても、小枯がそうしたいと言えばどうにもなるまいよ。首に縄でもつけて連れ出すか?」
「担いで山を下りますよ。…あの人を担ぐのは…そもそも私の役目だ」
小枯を肩に担いで話しながら五ン合まで歩いたあの道行きを思い出し、鬼鮫は妙に気が軽くなった。
「あの人は」
そう、あの弥則は。
「そうする私を、理解して、多分笑ってくれる」
あの柔らかく温かな、優しい顔で。
「…やれやれ。随分岡惚れしたものだ」
茅場が盆の窪を撫でて苦笑いした。