第10章 参の社
その途端、何をすべきか筋道が立った。
私は大枯や雨露に情があってもいい。小枯のことで腹を立てても、霜刃を認めていい。霜降が面白い男であることに笑っていいし、この虫が好かない茅場を、それでも魅力のある男と思って興味を持っていい。
小枯と会って、小枯を得たくて、変わった自分を否定しなくていい。
経巡という里に、そこで知り合った人たちに惹かれて情を持ったこと、それもまた自分。
「…私は何をすれば?」
こう言った自分に、寄合所で里を下りるからこそ里の役に立ちたいと言った小枯が重なった。
小枯を連れ去る、その置き土産は、ただの代価ではない。この経巡に生き続ける大枯や雨露、霜刃たちに、鬼鮫自身が残したいもの。
小枯を傷付け、愛し、育んだ経巡のこの先に関わることは小枯と関わる為に必要でもある。
経巡は小枯、小枯は経巡、これもまた分かち難く繋がりあったもの。
三山家を離れることを決めた小枯は多分、二度と戻らないという選択はしていない。ならば鬼鮫は小枯共々経巡へまた"帰る"為に経巡を守らなくてはならない。
それが小枯と生きるという道先に、然るべく在る。
「何をする気でここまで来た?」
鬼鮫をじっと見ていた茅場が逆に問う。
鬼鮫は苦笑いして懐を探った。
ぴくりと眉を上げた茅場に首を振って見せ、霜刃に小さな器に入った膏薬と晒しをきつく巻きまとめたものを投げてやる。
膝先に落ちたそれを霜刃が身動ぎせず見下ろすのを横目に、鬼鮫は居住まいを正して今一度格子窓の向こう、見えないその先を見やり、茅場に向き直った。
「あなたの依頼に応えましょう。そして経巡が永く在れるよう、手を尽くす。その上で小枯をー私に名前を預けてくれたあの人を」
ここで鬼鮫は霜刃を見た。霜刃は膝先の晒しにも触れず、鬼鮫を見返しもせず、ただ前を見て血を流しながら端然と座している。
鬼鮫はふと口角を上げて茅場に目を戻した。
「あの人を連れて行きます」
連綿と続いていく"次"を、途切れなく共に生きていく為に。
茅場がすっと目を細めた。
「つまり、お前は初枯へ払うものへの代価を贖わないということか」
「本来初枯さんとやらは金子を受け取る立場にない」
鬼鮫は皮肉げに笑った。