第10章 参の社
掌を広げ、両のこめかみを指で揉みながら茅場は俯けた顔に笑いを浮かべて、肩を落とした。
「干柿よ。お前はわかっていない。小枯はお前の手に余るものかどうか」
「…何の話です?」
「小枯は今暫く経巡の、私の手元にある方がいい。時が来て小枯にそのつもりがあるならば、お前の迎えを受け入れよう。小枯は里を出る。…いずれそうせざるを得なくなる。それまでは、待て」
「…だから何の話なんです?」
「宮司」
不意に細い女の声が割って入った。
翼殿の入り口に、鬼鮫と霜刃を先導してきた巫女が浅く頭を垂れて立っている。
茅場が右の眉を上げた。
「どうした小萩」
声をかけられ、小萩と呼ばれた巫女は僅かに肩を震わせて茅場を見、霜刃を見て鬼鮫を見た。それから目を泳がせるように茅場へ目を戻し、また頭を垂れる。
気丈そうな女に見えたが、予想外のことに動揺しているのが見てとれた。
「本巫女がお見えです。凍みの小枯共々、御目文字したいと…」
どくんと目の裏が波を打ったように揺れて、鬼鮫は所在なく佇む小萩の、その後ろを凝視した。
「…何だ。早すぎるぞ、南天。まだこっちの話はすんでいない…」
「私が無理を言った。南天は私に押されただけです」
南天と思しき小柄な巫女の肩に手を回すような格好で小枯が現れた。
白い水干に白袴、仕丁の格好をしているのが訝しくも妙に凛々しい。
「私にも是非、その話とやらをお聞かせ願いたい」
茅場を真っすぐ見、小柄が笑った。
「これで私も一枚噛んでいる話ですからね。蚊帳の外は願い下げですよ」
そう言った小枯が、鬼鮫を見た。
猫柳が靭やかに笑み綻ぶ。
見返した鬼鮫の胸の内が、文字通り熱を持って脈打った。
次いで小枯は霜刃を見、その腕の血の跡と血塗れの晒しの小山に驚いた顔をしたものの、黙って霜刃の肩に手を置いた後、鬼鮫の隣にストンと座り込んだ。
「…大事な話をお前と聞くなら、ここが私の座る場所だろ?」
手を伸ばすより先に膝に置いた手を握られ、低く囁かれて鬼鮫は瞠目した。
手を強く握り返し、目を開く。
「その通り。わかってるじゃないですか」
「ふ。そう。わかってるよ」
小枯は前を見て、すっと息を吸った。
「見ていて貰わなきゃならないからな。鬼鮫。お前に」