第10章 参の社
「馬鹿扱いされたくなければ馬鹿な真似をするな。本当にお前は小枯馬鹿だ」
呆れた様子の茅場の馬鹿が3つ連なった言葉に霜刃が下らないとばかりに鼻を鳴らす。
「私も馬鹿ではあるからな。馬鹿は嫌いじゃない。だが場を弁えろ。今が今、ここで揉めている場合ではない」
茅場は舞草刀を腰に差して、息を吐いた。
「干柿よ。お前は小枯と駆け落ちするのだろう?」
鬼鮫は噴きそうになってぐっと堪えた。茅場をちらと見て、いっぺんにぐらついた内心を抑える。
「私には私以外の耳目がある。密やかな運びは忍びに及ばないが、かと言って忍びに劣らぬ手足がある」
隙のない仕丁たちの様子が脳裏に浮かんだ。浮かんだ途端、飲み込めた。
「侍ですか」
何故気付かなかった。
あれは侍の佇まいだ。身近ではないが、疎かに出来ない明らかな勢力。
鬼鮫は歯噛みする思いで目を眇めた。
どういう経緯か、茅場は侍からなる私兵団を擁している。中立国の鉄の国が、他国の、更に貧しく弱小な里に何故侍を派遣した?
逡巡する鬼鮫を見透かしたように茅場は床を指先でトンと叩いた。
「お前の考えるような繋がりはない。あれらは私が彼の国に送り込んで研鑽させた経巡の若者だ」
成る程。
ならば尚悪い。
鬼鮫は改めて辺りに気を配った。
いつ何時でも即座に動けるよう、肩の力を抜いて余計な緊張を解く。
油断ならない。
茅場は他国へ、しかもよりによって守りの硬い侍の国へ若者を送り込み、育て上げるだけの人脈と財力がある。
何より長い期間をかけて企て出来る胆力を持ち合わせている。
「お前にも勧めたが、全く乗らなかったな」
いっそ面白そうに言って目線をくれた茅場に霜刃が冷笑する。
「俺の身上は神職であり、狩人だ」
「向いているものと思ったが、惜しいことよ」
「向き不向きは人の舳先を決着するものではない。俺は祝詞を口にするのも億劫だが神職に在り、山歩きも狩りも好まぬが、狩人だ」
言い捨てて霜刃は口を噤み、すっと端座した。
左手の晒しが血でじくじくと濡れそぼり、床に小さな血溜まりが出来る。
「我を定めるのは我だ。人を測るな」
「お前は口もきかずに狩りや神職をするには惜しい論客だ。返す返すも惜しいことよ。小枯がいなければお前はもっと違っていただろうな」