第10章 参の社
「ーあなたはお呼びじゃありませんよ」
霜刃の肘に食い込む鮫肌に更に力を加えて圧しながら、鬼鮫が歯を剥く。
「否」
左肘を盾に右手に力を入れて鮫肌を押し返しながら、霜刃が笑った。
「貴様こそが呼ばれてもいない手余し者」
腹に力の入った声で告げ、霜刃がいっきに腕を引いて左に転がった。
圧していた鬼鮫は一時体勢を崩したが、目で霜刃を追いながら膝をついて鮫肌を横ざまに低く振り抜く。
右手をついて飛び上がった霜刃が鮫肌を避け、着地と共に床にまた手をついて鬼鮫の脇腹に爪先を突き入れるような蹴りを繰り出した。
「…ッ」
吐き出かけた咳を押し留め、鬼鮫は目を血走らせ笑いながら引き戻した鮫肌を構える。
霜刃は滑るように下がって体勢を持ち直し、懐から小太刀を取り出して柄を噛み、右手で刃を抜いた。
「そんなものでこの私と渡り合おうと?』
鬼鮫が大きく口辺を引き上げて凄絶に笑えば、霜刃は左手から血を滴らせて唾棄するように鼻で笑う。
「俺を測るな。反吐が出る」
鬼鮫は笑みの残滓を残したまま、鮫肌を斜めに振り下ろした。霜刃が小太刀を構えたまま身を屈めて鬼鮫の間合いに滑り込む。
ガツンと硬い音が重なり、鮫肌も短刀も動きを止めた。
「双方弁えよ」
鬼鮫と霜刃の間に入り込み、右で上の鮫肌を受け、左で下の小太刀を受けて茅場が眉根を寄せて告げた。
「血の気の多いのは結構だが、考えなしに刃物を振り回すな」
鮫肌と小太刀をカチンといなして、茅場は両の手に握った舞草刀を振った。
採物舞に使うのだろう真剣が、馬鹿に生々しい刃文をギラつかせて翼殿の空を斬る。
「まともに話が出来ぬのならば去ね。頭に血ののぼった虚けと企みごとする気はない」
「さんざ焦らされるのには飽きましたよ。私は目的があってここにいる。その邪魔をするのであれば相手が誰であれ削り倒すまで」
鮫肌を肩に担ぎ、鬼鮫は茅場を睥睨した。
「成る程。その気持ちはよくわかる。私も全く同じことを考えているからな」
茅場がにやりと笑って鬼鮫を見返す。恐れも怖じ気もない、またもどこかしら楽しんでいるような顔が癇に障る。
「霜刃。肘はどうだ。腱を断たれていないか」
鬼鮫から事もなげに目を逸らし、舞草刀を鞘に収めながら茅場が霜刃を顧みた。
霜刃は血の滴る左手を煩わしげに振って小太刀を懐に仕舞った。
「馬鹿扱いするな」
