第10章 参の社
「あなたが出すものの代償に値するものを、大枯さんたちは出せますかね?」
出せるものか。
それとなく嘲笑しながら、鬼鮫は目を細めて茅場を見た。
莫大な金子と社の巫女を天秤にかけて釣り合いが取れる何を彼らが持っているというのか。
「さてな」
思いがけず茅場が鬼鮫をむしろ哀れむように見た。
「出すのは大枯たちではない。ー誰が代償を贖うのか、それは誰が何を感じるか次第だ、干柿鬼鮫」
「ー何が言いたいんです?」
「それがお前に何の関係がある、と言いたいところだが、干柿よ。お前もこの件に全く関わりないと言い切れはしないだろう?」
茅場は胡座した足を正して端座し、片目を眇めた鬼鮫向き直った。
「南天を里から出す代わりに小枯を本巫女に据える。これが私の求める代償だ」
「それは出来ない相談ですね」
鬼鮫は口角を上げて歯を剥いた。一時も置かない迷いのなさに茅場が苦笑する。
「小枯次第だが」
霜刃が低く呟いた。
「俺は認めぬ」
「ほう。お前は小枯を里に残す為なら何でもするかと思ったが」
「小枯は役目を終えた。もう充分だ」
噛んで含めるように言った霜刃を、鬼鮫と茅場がそれぞれ意外の目で見る。
「後は小枯が選ぶこと。俺はただそれを見ると約したが、小枯が経巡に残ろうとするのなら」
ここで霜刃は鬼鮫を見、ー初めて鬼鮫に感情の籠もった苛立たしげな目で鬼鮫を見、一転穏やかな表情を浮かべた。
「約した事を反故し、今度は俺が小枯を里から出す」
鬼鮫の頭にいっきに血がのぼった。
自分でも驚くほどいっぺんに怒りが湧き出て腰が浮く。
「干柿!」
茅場の静止も耳に入らない。鬼鮫は傍らに置いた鮫肌を手に立ち上がり、立ち上がりざまにそれを霜刃目がけて振り下ろした。ガツンと鮫肌の軌道が食い止められる。
予想しない手応えに目を細めれば、霜刃が左の肘を右の手で支え、鮫肌を受けていた。
鮫肌が食い付いた肘の羽織の下から、幾重にも巻いた晒しが覗く。狩り仕様か。
白の晒しに血が滲み、床に滴っていやに鉄臭い。
鮫肌と青い羽織の破れ裂けた肘の間から霜刃の目が見えた。
試すような、挑むような能動的な目色にまた頭が沸く。