第10章 参の社
霜刃をちらと見る。
退屈?小枯のいない場所では、しっ放しだろう。この男は。腹が立つ。
霜刃は全く反応なく、ただ前を見ている。これもまた読めない。茅場以上に読めない。
茅場はそんな霜刃に頓着ない。慣れているのだろう。
「生まれ里がいつまでも貧しい里とあれば情けないことよ。私はそれを正したい」
そう言った茅場に霜刃が鋭い一瞥をくれた。
「笑止」
低くひと言言い放つ。
「そう言うのも無理はない。今までが今までだったからな」
茅場は軽く頷いて淡々と続けた。
「それでいい。話を進めよう。先ず聞かせて貰いたいのだが、お前らは初枯からどう宝珠を取り戻す気でいたのか?まさかに南天さえ連れていけば初枯が易易と宝珠を渡すと思ってはいまいな?」
「雨露が幾ばくか包んだ」
霜刃の答えに鬼鮫は眉を上げ、茅場が意味ありげに笑う。
「…ほう。山を下りていた間に博打で稼いだ泡銭を吐き出したか。あの雨露が」
雨露は博打打ちか。
鬼鮫は妙に納得して、その上であの雨露が里の為に身銭を切ったことに、内心笑った。
馬鹿にして笑ったのではない。少なくとも"鬼鮫の知る得る雨露"らしいと思ったのだ。
だが。
「それが何れ程の金子の嵩か知らぬが、果たして初枯の犯した罪と覚悟に見合うものかね?」
茅場の言う通りだ。500両の大首に成り下がった罪人が泡銭で犯した罪の代価を売るかどうか。
霜刃があからさまにそこまで知るかという顔をして首を振った。
「初枯次第」
「初枯は金の価値を知っている」
茅場が空になった湯呑を揺らしながら口角を上げる。
「取引というものの相場の付け方もだ」
「ーあなたならその狡猾な初枯の交渉に応えられるんでしょうね」
煩わしげに眉を顰めた霜刃に替わって鬼鮫が茅場へ胡乱に笑って見せた。
「雨露の泡銭など話にならない金子をあなたなら出せるでしょう?」
鬼鮫に初枯を捕らえろと提示した金子の嵩を考えれば、茅場には大名の宝珠を盗人から買い上げるだけの財力がある。
「出せなくはない」
即答した茅場に鬼鮫と、霜刃までもが皮肉に笑った。
「大金を与えて社の看板に等しいらしい巫女を盗人に与えてまで里の為に尽くしたいと。素晴らしい心懸けですねえ」
鬼鮫に言われて茅場はふむと目を細めた。
「ただで出すとは言わない」