第2章 発現と出会いと喪失
柔らかな春の陽射しが降り注ぐ日。はまだ5歳。
家族と過ごす時間は、幼い彼女にとって何よりの宝物だった。
父の笑顔、母の優しい声、暖かい手のぬくもり。
日々の小さな幸せに包まれ、は今日も元気に笑っていた。
「、こっち見て!」
父が手を振る。は笑顔で手を振り返す。
母は買い物袋を片手に、忙しくも優雅に笑っていた。
この瞬間に、永遠を感じられるような、そんな平和な日常だった。
しかし――その日常は、突然、途切れた。
突然、家の外で金属がぶつかる音。重い足音が階段を駆け上がる音。
の耳に届く声は、いつもとは違った冷たさを帯びていた。
「……誰か、いるか?」
低く、冷たい声が響く。
母親は反射的にを抱き寄せた。
「、隠れて……!」
小さな身体は母の腕の中で震える。
父もすぐに状況を理解し、の手をぎゅっと握った。
「大丈夫だ、。怖くない。お父さんとお母さんがいるから」
その言葉に、は少し安心した。
でも、その安堵は長くは続かなかった。
敵の影が玄関に差し込む。窓ガラスを割る音、重い足音が家中に響く。
は母の胸に顔を埋め、息を止める。
小さな手が母の服を握る。
「……怖いよ……」
声はか細く震え、涙が頬を伝う。
母はの髪を優しく撫で、落ち着かせようとするが、自身も震えていた。
「大丈夫……大丈夫だから、……」
しかし、敵の影は次第に家の中へ侵入してくる。
父が立ち上がり、身を挺してと母を守ろうとする。
「、ここにいなさい!お母さんと一緒に隠れていろ!」
その瞬間、家の奥で激しい衝突音。物が壊れる音。
の小さな身体は恐怖で縮こまる。
「いや……いやぁ……!」
泣き叫びながらも、母はを必死に抱き締め、父は前に立つ。
だが、敵の力は圧倒的だった。
父が叫ぶ。「、絶対に離れるな!ここから……必ず……」
銃声、衝撃、そして破壊の音。
は目を閉じ、母の胸に顔を押し付け、震えながら祈った。
「助けて……助けて……」
祈りは小さく、そして届かぬまま、現実は容赦なく襲いかかる。