第2章 発現と出会いと喪失
柔らかい春の陽射しが、公園の芝生を淡く染めていた。
5歳のは母親と一緒に、近所の小さな公園を歩いていた。母親はママ友たちと楽しげに話しており、の存在はその輪の外に置かれる。
周囲の幼稚園児たちは、滑り台を何度も滑ったり、砂場で城を作ったり、鬼ごっこに夢中になったりしていた。楽しそうな笑い声が春の風に乗って耳に届く。しかしの心は、なぜかその輪に入る気持ちにはなれなかった。
「ここの砂、ふわふわ……」
小さな手でそっと砂を山に盛り、指先で模様を描く。砂の冷たさと柔らかさを確かめるように、ひとつひとつ丁寧に形を整える。遊ぶこと自体は楽しいはずなのに、なぜか今はひとりで静かに遊ぶ方が落ち着いた
砂を掘り、手で形を整えていると、ふと視線が歩道の端に届いた。遊具から少し離れた所に、ボロボロで引っかき傷だらけの小さな少年が立っている
膝に土や小さな擦り傷がつき、袖は破れて手も汚れている。目は潤んでいて、泣きそうな表情を浮かべていた
「あの子、痛そう…」
小さな胸がざわつく。恐怖よりも、心配が勝った。
一歩、また一歩と少年に近づく。少年は俯き、警戒心で体を少し硬くしている
(どうしよう…怖がらせちゃうかな…でも……放っておけない)
は思わず小さく息を呑むと、そっと手を差し伸べた。母親に見られないよう、ぎりぎりの距離から手のひらに小さな力を込める。
「…大丈夫だよ。痛くないから」
指先から滲む温かい光が、少年の背中や腕にそっと触れると、傷口にふんわりと光が広がっていった。
みるみるうちに、赤く腫れた擦り傷や切り傷が消え、痛みだけがゆっくりと和らぐ。
少年は驚きのあまり目を見開き、声を震わせた。
「……ありがとう…」
はにっこりと笑い、そっとその場を離れた。
「…またね」
その小さな声は、風に乗って少年の耳に届く。幼い#NAME1の手で触れられ、光で傷が癒されたこと――
それは単なる親切ではなく、命を救われた体験として、少年の心に深く刻まれた。
少年の目の奥には、小さな光が残った。
「あの子…覚えておかなくちゃ…」
幼いながらも心の奥で芽生えたその感情は、無意識のうちに強く心を揺さぶった。
小さな奇跡を生んだ春の日。柔らかい陽射しと静かな砂場の時間は、少年の人生に小さな光を残した。