第3章 はじめましての訓練
公安の寮の朝は、静かだ。
無機質な白い壁、薄いカーテン、
どこか薬品の匂いが混ざった廊下。
そんな冷たい環境の中で、
ホークスの声だけはやけに明るかった。
コンコン。
「ちゃーん、起きてる? 朝だよー」
は毛布にくるまったまま、むにむにと動く。
「……まだねむい……」
「えー寝坊したら今日のプリン没収だよ?」
がばっ。
毛布の中から飛び出す。
寝癖のまま大きな目をぱちくりさせ、ホークスをにらむ。
「とらないで……プリン……」
「はいはい、起きれて偉い偉い」
ホークスは笑いながらの頭を撫で、
部屋の照明をつける。
の一日は、たいていこの「撫でられる」から始まった。
彼の手はいつも暖かい。
廊下を歩くと、係員たちはみんな少し柔らかい表情になる。
「おはよう、ちゃん」
「……おはようございます……」
まだ人見知りは残っていたが、
ホークスが隣にいれば少し安心できた。
ホークスはのペースに合わせて歩く。
歩幅を半分にし、が追いつけるように緩やかに進む。
羽は小刻みに揺れ、時々ふわっとの頭に触れる。
「……やだ、こそばゆい……」
「ごめんごめん、羽が勝手にね。
ちゃんの髪さわるの好きみたい」
「へんなの……」
そんな、ぼそっとした小さな返しにも
ホークスは声をあげて笑った。
「君、ツッコミ上手になってきたね!」
これが、にとって“日常”になっていた。