第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
悟は、黙って見ていた。
口出しをしないで、もちろん手も出さない。
ただ、同じ部屋の端で、視線だけを円の中心に据える。
仁美の呼吸。
肩の動き。
呪力の揺らぎ。
一つでも乱れたら、即座に止めるつもりだった。
だが、仁美は崩れなかった。
術式は繋がり、効果は発現し、戦況は確かに動いた。
悟は、無意識に拳を握る。
(……できてる。)
それは安堵でも、誇りでもなく、胸の奥に刺さる、はっきりとした不安だった。
――彼女は、もう“守られるだけ”ではいられない。
悟は、何も言わずに、ただその光景を見続けていた。
順調だったのは、そこまでだった。
円の中心で、仁美の身体が小さく揺れた。
呪力が、逆流する。
反命の反動。
初めて正面から受けた衝撃が、仁美の内側を一気に駆け抜けた。
「……っ。」
声にならない息を吐いたまま、仁美の身体が前に崩れる。