第5章 白銀の面影と漆黒の断絶
その男の背中に、仁美は静かに手を当てる。
自分の術式の残穢を、薄く、確実に貼り付けるために。
残穢は淡く、熱を持たない。
だけど悟の目にはハッキリ仁美の残穢が呪術師に付いたのが分かる。
彼はそれだけでいい気分では無かった。
悟は呪術師を見届けると、仁美の背中に手を添えて次の場所に仁美を案内する。
次に案内されたのは、丸い呪印が床一面に描かれた部屋だった。
壁にも、天井にも、用途の違う無数の呪印が刻まれている。
その中心の円の中に、仁美が座る。
背筋を伸ばし、呼吸を整え、呪力を一点に集める。
仁美の術式は、遠隔。
ここから飛ばし、相手の術師を介し、その先へ。
別室で、一級呪霊と対峙する術師。
呪霊の咆哮と同時に、空気が跳ねた。
円の中で、仁美が術式を発動させる。
反命が、縁火が、呪印を伝って走る。
術師の呪力が一気に跳ね上がる。
呪霊の動きが鈍り、空間の圧が変わった。